第189話 あ、ありのまま 、昨日起こった事を話すぜ。
伊邪那美がオーディンを蹴り飛ばしたことで、話が脱線してしまったが、すぐに軌道修正に入った。
「紅葉に外国で戦ってもらうことは、此方の考えた報酬があれば引き受けてくれるはずだえ」
「その考えを聞かせてちょうだい」
「わかったえ。ガネーシャ、カジノに行った時に紅葉が何に興味を持ったか覚えてるかえ?」
「・・・コロシアムの試合ね」
「その通りだえ」
少し考えた後、ガネーシャが出した結論を聞き、伊邪那美は首を縦に振った。
「コロシアムで、過去の英雄の記憶を持った天使達と戦うことを報酬にするの?」
「いや、そうじゃないえ。紅葉の武器は槍だえ。槍なら此方達の中にも使い手がいたえ?」
「なるほど。オーディンの出番って訳ね」
「そうだえ。オーディンはスケベ爺でも槍の名手だえ。オーディンに稽古をしてもらう権利と引き換えにして、外国で戦ってもらうんだえ」
「うん、良いと思うわ。オーディン、紅葉の面倒、ちゃんと見てあげなさい」
伊邪那美の話を聞き、ガネーシャはオーディンに決定事項だと言わんばかりに言った。
脚の痺れがマシになって来て、ようやくまともに立てるようになったオーディンは、多分無理だろうと思っても訊かずにはいられなかった。
「儂に拒否権はないのかのう?」
「今回の戦犯は誰かえ?」
「あるとでも思ってるのかしら?」
「・・・わかってたわい。やらせてもらうのじゃ」
万に一つも断れる可能性がないとわかっていたが、やっぱり断れなかったので、オーディンは小さく息を吐いた。
自分の油断が招いたこととはいえ、オーディンが自ら下界の者に槍の指導をすることになるとは思っていなかったので、溜息をついてしまったのだ。
「紅葉のことは良いとして、問題は響だえ」
「うーん、確かに響には、何をあげたら良いのかわかんないわ」
「奏同様、寝ることは好きでも、奏程執着してはおらぬえ」
「寝ることというよりは、全体的にサボっても確実な実入りがあることに興味があるのよね」
「困ったえ。何を報酬にすれば良いか、全く思い浮かばないえ」
「響については、考えるのは後にしましょう」
「そうするえ」
普段、欲しいものについて自己主張の少ない響については、何を報酬にすれば動いてくれるのかわからないので、伊邪那美とガネーシャは響への報酬を考えるのは後回しにした。
そして、ようやく今日の本題に入ることにした。
伊邪那美もガネーシャも、好きでオーディンに3時間も正座させたまま説教をしていた訳ではない。
説教の後、本来の目的を果たすつもりはしっかりとあったのだ。
「オーディン、そろそろロキの頭は復活したかしら?」
「多分、復活しとるじゃろうな。拘束、解いた方が良いか?」
「変な真似をさせないように、解くのは頭部だけにしとくんだえ」
「わかったわい。【
ポケットの中から、ロキを光の鎖で拘束する【
それから、オーディンは上の部分の少しだけ、光の鎖を解除した。
すると、光の鎖の隙間から、ARのようにロキの頭だけが現れた。
「・・・奏はどこだ? いないのか?」
「もう帰ったぞ」
「はぁぁぁぁぁ・・・」
奏がいないとわかると、大きく息を吐いた。
「ロキ、奏にやられたことがトラウマになったんじゃろ?」
「・・・あれはなんだ? 神じゃないくせに、次元が違う。興味本位に手を出したら、手を噛まれるどころか跡形もなく喰い殺される」
オーディンが奏の名前を出すと、頭部だけが現れたロキが震え始めた。
「此方達は奏がロキを倒したところを見てないえ。何が起きたんだえ?」
「俺は昨日、奏の強さをほんのちょっぴりだが体験した。い、いや、体験したというよりはまったく理解を超えてたんだが・・・」
ロキがいつになく真剣な表情で、次の言葉を溜めるものだから、伊邪那美達はゴクリと唾を飲み込んだ。
「あ、ありのまま 、昨日起こった事を話すぜ。俺は奏の前から逃げ出したと思ったら、いつの間にかサイコロカットされてた。な、何を言ってるのかわからねえと思うが、俺も何をされたのかわからなかった。頭がどうにかなりそうだった。催眠術だとか超スピードだとか、そんなチャチなもんじゃ断じてねえ。もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ・・・」
ロキが言いたいことを言い終わると、伊邪那美が得意気に言った。
「奏は強いんだえ。これに懲りたら絶対に奏の休暇を邪魔したら駄目だえ」
「あっ、そうだわ。ロキが悪さをしたら、奏に言いつけましょう。ロキがこんなに怯えるなら、奏にいくら払ってもロキを躾けてもらえば良いのよ」
「ガネーシャは容赦ないのう。じゃが、儂もそれに賛成じゃわい」
「お前達、実は神の
自分が恐怖体験をしたというのに、サラッと流して自分に対する切り札として使うなんてあんまりだという思いから、ロキは素直な感想を述べた。
「悪魔と関係を持ったのは、ロキの方じゃろうが。狂信玉なんてもの、誰から手に入れたんじゃ?」
鋭い目つきになったオーディンが、ロキに訊ねた。
伊邪那美達が集まったのは、ロキと関係のある魔界関係者をロキに吐かせるためだ。
ようやく本題に入ったので、オーディンだけではなく、伊邪那美もガネーシャも真剣な表情になっていた。
「ダンタリオンから貰った。バアル曰く、ソロモン72柱の悪魔系モンスターの中では、公爵に位置する奴だ」
「どんな奴じゃ?」
「かなり面白い奴で、毎回会う度に姿が違う。俺も化けるのは得意だから、奴と気が合って話すようになったんだ」
「ロキ、魔界に行ったことがあったのかえ?」
「バアルが天界に戻って来た時、あっちが混乱してると思って潜入した。予想通り、バアルがかなりあっちを賑やかにしてくれたおかげで、俺はあっさり入り込むことができたさ」
「つまり、オーディンはその頃からロキの管理を怠ってたってことね」
「・・・今その話は良いじゃろうが」
ガネーシャに痛い所を突かれ、オーディンはどうにか話を逸らしたいと思った。
「ロキ、ダンタリオンからどういう経緯で狂信玉を手に入れたんだえ?」
「あれは、俺が天界を引っ掻き回す良いアイディアがないかと訊ねたら、ダンタリオンが喜んで融通してくれたものだ」
「有罪だえ。奏を呼ぶえ」
「ギルティ。奏を呼びましょう」
「儂も賛成じゃ」
「だが、ちょっと待ってほしい! 俺はその時、面白い話を聞いたんだ!」
伊邪那美達が奏を呼び出し、自分に嗾けられたらとロキは考えた。
それだけで冷や汗が止まらなくなったので、ロキは自分の有用性をアピールして、どうにか奏を呼び出さない方向に持っていくことに必死になった。
「言ってみるえ」
「ソロモン72柱の中で、下克上の動きがある」
「下克上かえ?」
「そうだ。大体、バアルが威力偵察と称して王の1柱になるまで暴れたせいで、魔界は大混乱だった。それを阻止できない王共は無能だと憤慨し、公爵以下に格付けされた奴等は納得がいってないのさ」
ロキの話を聞き、伊邪那美達は少し考え込んだ。
奏を観察していた時、ソロモン72柱は揃ってバアルを裏切り者と言って戦いを挑んでいた。
その1点においては、ソロモン72柱は同じ方向を向いていたように見えたため、伊邪那美達はロキの証言が正しいのか判断がつかなかった。
伊邪那美に代わり、今度はオーディンが質問した。
「ダンタリオンは、下克上を狙う一派という認識で良いのかのう?」
「合ってる。あっちもあっちで、表面上は同じ方向を向いてる振りして、魔界内の格付けをやり直そうとしてんだよ。地球に侵攻する際、手柄を立てて王共よりも成果を出せば、バアルの抜けた王の枠に入ることもできる。もしくは、他の王を引きずり下ろすことも可能だ」
「
「仮にそれが事実だとして、此方達にどう有利に働くんだえ?」
「そこが大事よね。あっちが一枚岩じゃなくても、極論関係ないわ。だって、あっちも地球のあちこちに散って、ダンジョンのボスとして踏ん反り返ってるんだから」
「ま、待ってくれ。それなら、俺が奏の所にいる
想定外のロキの申し出により、伊邪那美達は顔を見合わせるのだった。
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