第172話 奏兄様、ウォーターベッドを試したくありませんか?
伊邪那美に先導され、奏達がやって来たのは豪華な温泉旅館だった。
その前には、【
「ようこそ、極楽湯へ」
「ガネーシャ、貸切ってくれてありがとう」
「良いのよ。奏達には、これまで存分に働いてもらったもの。全身がふやけるまで入っても、貸し切りだから万事OKよ」
「という訳で、ここで別れるえ。奏と楓、悠、ルナ、サクラは家族風呂に案内するえ。それ以外は、女湯に行くえ」
「えっ、母上、私は奏の母親ですから、私も家族風呂ですよ?」
「おい、天照。空気読め。いいから、俺様達と一緒に、お前はこっちだ」
「バアル? い~や~だ~」
気を利かせたバアルに引き摺られ、天照は女湯に連行された。
その後を、伊邪那美とガネーシャが先導して紅葉達を女湯へと連れて行った。
「じゃあ、俺達も行くか」
「はい!」
バアルのおかげで、騒がしい天照がいなくなり、奏とゆっくり温泉に浸かれるとわかると、楓はご機嫌になった。
極楽湯の中に入り、奏達は施設内の看板で家族風呂の位置を確認し、そこへと向かった。
脱衣所で服を脱ぎ、家族風呂へ入ると、奏は曇りのないガラスで雲海を一望できる石造りの浴槽が目に留まった。
「立派だな」
「立派です」
そういう楓の目線は、浴槽ではなく奏の体に向いていた。
どうやら、楓にとっては絶景は二の次で、奏の裸を存分に楽しむことの方が優先らしい。
「あう~」
悠が自分に向かい、両手を伸ばして何かを伝えようとしているので、奏は悠に訊いてみた。
「ん? 悠は高い所から見たいのか?」
「あ!」
「・・・<早熟>があるのはわかるが、早熟過ぎじゃね? 悠、俺の言ってることわかる?」
「あう!」
小さく首を振る悠を見て、奏は優しく悠の頭を撫で、そのまま楓から悠を預かって両腕を高く上げた。
「どうだ、悠? 良い景色だろ?」
「あう~!」
悠は目を輝かせ、窓の外に広がる景色を眺めた。
その間、楓はずっと奏の裸を目に焼き付けていた。
流石は楓、全くブレない。
「パパ~、入って良い~?」
「入るなら、ちゃんとかけ湯をしてからだ」
「え~」
「ちょっと待ってろ。楓」
「はい。悠、こっちにおいで」
「あう」
奏から悠を受け取り、楓は悠を抱っこした。
奏は浴槽にダイブしそうなルナに対し、しっかりと湯をかけた。
「これで良し。ルナ、入って良いぞ」
「わ~い」
バッシャァァァァァン!
極楽湯の施設に入る前に、ルナは体のサイズをぬいぐるみ程度に小さくしたが、思い切り浴槽に突っ込んだせいで、派手に水飛沫が上がった。
「ルナ、行儀悪いから飛び込んじゃ駄目だろー?」
「ごめんなさ~い。あぁ~、極楽~」
謝ってはいるものの、ルナの意識は温泉に向いていた。
すると、サクラが奏の周りをソワソワしながら浮いていた。
「サクラもかけ湯してほしいのか?」
「うん! おとーさん、お願い!」
「わかった」
「んん~」
奏にかけ湯してもらい、気持ち良さそうに声を漏らすサクラだった。
サクラはルナとは違って、勢いをつけて飛び込むことはなく、歩くような速さで温泉に浸かった。
「良い気持ち~」
そう言うと、サクラは全身から力を抜き、温泉に浮いた。
それを見届けた後、奏達はお互いにかけ湯してから温泉に浸かった。
「ああ゛~、沁みる~」
「良いお湯ですね~」
「あう~」
極楽と謳うだけあって、確かにこの温泉は極楽だと奏達は誰しもが思った。
奏が目を閉じ、温泉に身を預けるようにしていると、奏の膝の上に何かが乗った。
そのすぐ後、自分の胸板に柔らかい2つの感触があったことで、奏は何が起きたかすぐに察した。
目を開けると、奏の予想通り、楓が自分に正面から抱き着くようにして自分の腿の上に乗っていた。
「楓、何やってるの?」
「えへへ。奏兄様を堪能してます」
「待った。悠は?」
「大丈夫です。ヘラに預けました」
「任されてるわ」
「・・・ヘラ、いつの間に来たんだ?」
「俺様もいるぜ」
「バアル、お前もか」
自分が気づかない間に、バアルとヘラが家族風呂に来ていたことに奏は静かに驚いた。
「どうやってここまで来たか、知りてえんだろ?」
「まあな。バアルとヘラだけ来るのは、天照が拗ねて面倒なことになるだろうし」
「伊邪那美が天照をサウナに誘ったタイミングで、俺様達は抜け出してきたんだ」
「なるほど。伊邪那美がグルなのか。それならまあ、大丈夫か」
「おうよ。ヘラが、きっと楓は家族風呂で奏に密着したがるから、悠とルナ、サクラの相手が必要だって言い出してな、俺様達が来てやったんだ。どうだ、嬉しいだろ?」
「はい! 嬉しいです!」
奏が何か言うよりも先に、楓が良くやってくれたとサムズアップした。
そこに、ヘラが口を挟んだ。
「奏、折角ですから、家族風呂で2人目を作りなさい」
「・・・お前はなんてことを勧めてるんだ。悠達の前で、そんなことできる訳ないだろ?」
「問題ないわ。妾達が悠達の面倒を見てる間、奏は楓を家族風呂の奥にある愛の湯に連れて行きなさい。そうすれば、後は楓がなんとかするわ」
「愛の湯ってなんだよ」
「行けばわかるわ。楓、ちょっと来て」
「うん」
ヘラに手招きされ、楓が奏から一時的に離れた。
その隙に、バアルがそっと耳打ちした。
「奏、お前は既に詰んでる。ヘラは、伊邪那美とガネーシャと結託して、奏達にガンガン子供を増やさせようとしてるぜ。諦めて、愛の湯で楓に捕食されてくれ」
「なん・・・、だと・・・」
外堀が既に埋められていると知り、奏は愕然とした。
その時には既に、ヘラから愛の湯でどうすれば良いかレクチャーされた楓が、満面の笑みで奏に近寄っていた。
「奏兄様、行きますよ♡」
「楓、温泉ではちょっと」
「奏兄様、ウォーターベッドを試したくありませんか?」
「ウォーターベッド?」
ベッドと聞き、奏がピクッと反応した。
「あっ、そこに反応しちまうのか」
「フッフッフ。奏があらゆるベッドに興味を持ってることは、とっくに把握済みよ。こう言えば、間違いなく奏に興味を持たせられるって言ったのよ」
「ヘラ、お前って奴は策士だな・・・」
奏がウォーターベッドと聞き、反応したところでバアルは苦笑いした。
それを見て、ヘラはドヤ顔で自分の作戦をバアルに説明した。
その作戦を聞き、間違いなく成功すると思ったので、バアルはヘラにそこまでやるのかと戦慄した。
「奏、悠とルナ、サクラは俺様達が責任をもって面倒みるから、しっかり逝ってこい」
「おい、バアル。今、漢字が違っただろ?」
「気にすんな。それよりも、楓が待ってんぞ?」
「奏兄様、据え膳食わぬは男の恥です」
「・・・わかった」
楓に力強く断言されてしまえば、奏は諦めるしか選択肢がない。
楓に手を引かれ、愛の湯に向かって歩く奏を見て、バアルはドナドナという言葉を真っ先に思い付いたが、その感想は心の中にしまい込んだ。
そして、奏に心の中で敬礼すると、バアルはルナとサクラの方に向き直った。
「よし、ルナ、サクラ。俺様が体を洗ってやろう」
「あれ~? パパとママは?」
「おとーさん、おかーさん、どこ?」
バアルに声をかけられたことで、ぼーっとしていたルナとサクラが我に返った。
ルナもサクラも、奏と楓の姿が見えなくなったので、キョロキョロしていた。
「奏と楓は、汗でもかいてるさ」
「サウナに行ったの?」
「・・・そんなもんだ」
実際は全然違うのだが、ルナが勘違いしてくれたので、バアルは良心の呵責に苛まれながらも、どうにか頷いた。
「そっかぁ。ルナ、サウナは苦手なの。バアル姉ちゃん、体洗って~」
「サクラも!」
「おう、任せろ。風呂が上がったら、奏と楓に触り心地が良いって褒められるようにしてやんよ」
「ほんと!? やってやって!」
「サクラも!」
「あいよ。んじゃ、洗い場行くぞ」
「「は~い」」
バアルはルナとサクラを連れて、洗い場へと移動した。
それと同時に、ヘラも悠を連れて洗い場に移動した。
なんだかんだ、楓の手が離せない時は、ヘラが悠の面倒を見ていたので、悠はヘラに懐いていたりする。
だから、洗い場でヘラが悠の体を洗う時も、悠は暴れることなくヘラにされるがままにされていた。
2時間後、各々の時間を過ごし、奏達は家族風呂から上がった。
その時の奏の疲れ切った表情を見て、バアルが優しく奏の肩を叩いたのは言うまでもない。
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