第165話 一家に一体ピエドラが欲しい気分よ

 赤いミイラだけが、モンスターカードをドロップし、それ以外は魔石とマテリアルカードをドロップした。


 マテリアルカードには、干物の絵が描かれていた。


 それらを収納袋にしまうと、響達は反対側の通路へと進んだ。


 奈落タルタロスでは、先程戦ったミイラ達よりも強いグレートデーモンファイター等と戦ったので、響達にとっては物足りないというのが正直なところだ。


「次は何が出るかな?」


「エジプトっぽいモンスターじゃない?」


「例えば何?」


 響が紅葉に訊ねた瞬間、響達の視界がぐにゃりと歪んだ。


 歪みが元通りになると、響達は通路にはいたものの通路の松明の数が減ったことに気が付いた。


「多分、転移させられたわね」


「そういえば、奏ちゃんが奈落タルタロスは下に行く程松明が減ったって言ってたっけ」


『お主等、気を引き締めるのじゃ』


『そうだよ。君達が舐めプしてたから、ピラミッドにいるソロモン72柱が本気出したんじゃない?』


 迦具土と月読が、緊張感のない2人に注意した。


「わかったわよ」


「注意する」


「グォォォォォン!」


 突然、通路に咆哮が響き、その場にいる全員が戦闘態勢に入った。


『落ち着くのじゃ。今の咆哮の主は、この通路の先の広間におるのじゃ』


『油断して良いとは言わないけど、広間までに敵の反応はないよ』


「良い経験値になりそうだね」


「エジプト神話に出て来るようなモンスターかしら?」


「なんだって良いよ。レベルアップさせてくれるなら」


 響達は通路の先へと急いだ。


 そして、広間に到着した響達を待ち構えていたのは、鰐の顔にライオンの鬣と上半身、カバの下半身と言う見た目のモンスターだった。


『アメミットだね』


『アメミットじゃな』


 迦具土と月読が頷き合うことで、響達は目の前にいるモンスターがアメミットであると断定した。


「ヨクゾココマデ来た」


「喋った」


「当然ダ。俺ハコノダンジョンデ死ノ管理ヲシテルカラナ。言葉ヲ喋レル方ガ、便利ナンダヨ」


「ふ~ん。【陥没シンクホール】」


 ズズ、ヒュッ、ズズズッ。


 響がアメミットのいる辺りを陥没させたが、ギリギリでジャンプするのに間に合い、アメミットが穴の底に落ちることはなかった。


「行儀ガナッテナイ。金髪ノ冒険者ハ有罪。【執行エクスキュート】」


 ゴォォォォォッ!


「【影移動シャドウムーブ】」


 アメミットの口から、黒い光線が吐き出されたのと同時に、響はアメミットの影に潜って回避した。


「オノレ、小癪ナ」


「響だけが相手じゃないわ。【遅延雨ディレイシャワー】」


 ザァァァッ。


「ヌゥウゥ、オォノォレェ!」


 触れるだけで動作が遅れる光の雨に当たり、アメミットの動きが鈍った。


「首置いてけ。【影拘束シャドウバインド】【暗殺アサシネイト】」


 ズズズズズッ、スパァァァァァン! パァァァッ。


 念には念を入れて、動きの鈍ったアメミットを影で拘束し、完全に動きを封じてから、響はアメミットの首を斬り落とした。


《響はLv98になりました》


《ピエドラはLv98になりました》


 アメミットを倒した瞬間、神の声が響とピエドラのレベルアップを告げた。


「やった、レベルアップ」


「ヽ(´∀`)人(・ω・)人(゚Д゚)人ワショーイ」


 レベルアップしたことで、響とピエドラが喜んだ。


『なんだ、響達やるじゃん』


「ドヤァ」


 アメミットを容易く倒したことで、月読は感心した。


 実際、ミイラ達をいくら倒したところで、どれぐらい強いのかはわからない。


 だから、アメミットという一般的な冒険者にとっての強敵を簡単に倒した響達を見て、月読は感心したのだ。


『喜ぶのは構わないのじゃが、この広間に後続のモンスターが続々来ておるのじゃ』


 月読が響を褒めていると、迦具土はそれを遮るように警告した。


 それに対し、紅葉はピエドラに指示を出した。


「ピエドラ、通路入口の上空で待機。合図したら、【竜降下ドラゴンダイブ】」


「よっしゃ!Σo(*・∀・*)がんばんで!」


 紅葉の指示に従い、ピエドラは反対側の通路の入口の上空まで移動し、いつでも攻撃できるようにした。


 そこに、鷹の顔と翼を生やした人型のモンスターの集団がやって来た。


「ピエドラ、GO!」


「バイバイ(ヾ(´・ω・`)」


 ヒュゥゥゥッ、ズドドドドドォォォォォン! パァァァッ。


 ピエドラの【竜降下ドラゴンダイブ】により、モンスターの集団はペシャンコに押し潰されてHPを全損した。


 その中には、ピエドラに攻撃を試みた者もいたようだが、【物理無効フィジカルヴォイド】を会得しているピエドラの前には無力だった。


「ピエドラ、グッジョブ!」


「(。+・`ω・´)シャキィーン☆」


 紅葉に褒められ、決め顔の絵文字で応じるピエドラには、まだまだ余裕が感じられた。


 流石に、この後にもモンスターの集団が続けて現れることはなく、響達は戦利品を回収してから通路の先へと進んだ。


 すると、再び響達の視界がぐにゃりと歪んだ。


 歪みが元通りになると、響達は通路にはいたが、今度は通路の松明の数が増えていた。


「あれ、どういうこと?」


「階層をランダムに転移させられてる?」


「奏ちゃんに訊けば、バアルさんが教えてくれるかな?」


「・・・駄目だわ。試してみたけど、念話機能が使えなくなってる」


『これは奇怪じゃのう』


『手間のかかることを・・・』


 迦具土と月読も、ダンジョン内に閉じ込められた原因がわからないらしく、ムスッとした声を出した。


「よくわからないけど、とりあえず現れた敵を倒せば良いんだよね?」


「そうね。見敵必殺サーチ&デストロイで行きましょう」


『延暦寺を経験したからか、肝が据わってるのじゃ』


『何それ知らない。教えて』


『無事に双月島に帰ったらなのじゃ』


『今聞く訳にもいかないか。わかったよ』


 響達は落ち込むこともなければ、慌てることもなく、通路を先へと進んだ。


 しばらくすると、通路の先から水の流れる音がした。


「紅葉、ここで水攻めってヤバくない?」


「えっ、まさか水が流れて来てる?」


「多分」


「殺意の高い罠ね。・・・ピエドラ、飲み干せる?」


 罠を破る手段を考えた紅葉は、ピエドラの方を振り返った。


「v(*'-'*)oォヶォヶ♪」


 ピエドラが問題ないと応じると、響達の視界に大量の水が押し寄せて来るのが見えた。


 キュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!


 紅葉の考えた策は、ピエドラの【大食ブリミア】で流れて来る水を全て飲み干すという力技だった。


 5分もの間、ピエドラはずっと流れて来る水を飲み続けた。


 流石に、水が止んだ時には、ピエドラの体がパンパンになっていた。


「ピエドラ、私が指示しといて訊くのも変だけど、大丈夫?」


「_| ̄|○、;'.・ オェェェェェ」


「今にも吐きそうなのね」


「いや、もう吐いてるよね、この絵文字」


 ブシャァァァァァァァァァァッ!


 我慢できなかったらしく、ピエドラは体内に無理やり収めた水を前方に吐き出した。


 それは、光線ばりの勢いで放たれ、少しのタイムラグの後、何かに命中する音が響達の耳に届いた。


 そのすぐ後、響達の耳に神の声が届いた。


《ピエドラの<大食い>が、<暴食>に上書きされました》


《ピエドラの【大食ブリミア】が、【暴食グラトニー】に上書きされました》


 ピエドラの称号とスキルが、一気に上書きされたため、紅葉はピエドラにかなり無理をさせたのだと悟った。


「ピエドラ、無茶させてごめんね。一家に一体ピエドラが欲しい気分よ」


「ぃゃぁ(●´∀`)ゞそれほどでも…」


「それほどでもあるよ。流石はピエドラ先生」


「照レマスナヾ(-`ω´-o)ゝ。+゚」


 紅葉と響に褒められ、気分が良くなったらしく、ピエドラは紅葉に不満を言ったりはしなかった。


 それから、罠が立て続けに発動することもなく、響達は通路を進んだ。


 突き当りのところで、魔石が散らばっていたのを見て、先程ピエドラが吐き出した水により、モンスターの集団を倒していたことがわかった。


 戦利品を回収して突き当りを曲がると、響達の視界には、少し先にまたしても広間が見えて来た。


 広間に足を運ぶと、今度は漆黒の鱗の巨大な蛇が待ち構えていた。


 目は赤く怪しい光を放っており、中ボスにしては風格があり過ぎる様子だった。


『アポピスなのじゃ。ラーの宿敵なのじゃ』


『気を付けて。こいつ、アメミットと比べて、軽く3倍は強いよ』


 迦具土と月読が注意を促したことで、響達の警戒度合いは一気に引き上げられた。


 戦闘態勢に入り、響達は先手を取りに行った。

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