第133話 流石は掲示板のアイドル(笑)

 召喚士サモナーの女性は、紅葉達の前で立ち止まった。


 柔らかい感じのボブと表現すべき髪型をした黒髪の女性だが、服装は黒い眼帯と黒いマントといった感じであり、簡単に言えば黒ずくめであった。


 その見た目からして、紅葉は召喚士サモナーの女性に何か通じるものを感じた。


 それと同時に、召喚士サモナーの女性も紅葉に感じるものがあったらしい。


「「決闘デュエルしようぜ」」


「いや、何言ってんの?」


 初対面のはずの2人が、いきなり訳のわからないことを言っているので、響は顔を引きつらせながら止めに入った。


『おい、紅葉。ふざけてる場合じゃないのじゃ。この者から、我と同じ神器の反応を感じるのじゃ』


「あら、やっぱりあなたも神器保有者なのね」


「ええ。これよ」


 頷くと、召喚士サモナーの女性は眼帯を外し、右目を紅葉達に見せた。


 そこには、赤く光る眼があり、どう見ても生まれつき備わっているものではなかった。


「義眼・・・。まさか、義眼の神器を埋め込んだの?」


「違うわ。私、子供の頃の怪我のせいで、右目が義眼だったの。世界災害ワールドディザスターが起きてから、踏破したダンジョンで手に入れた眼鏡が神器で、義眼に同化されたって訳」


「眼鏡って、一体どの神様よ?」


「ヘカテーよ」


「それって、眼鏡とヘカテーの語感が似てるから? 神様は神器として選ぶものに、何かしら想起させる物を選ぶのかしら?」


 この紅葉の質問は、召喚士サモナーの女性に向けられたものではなく、迦具土に向けられたものだった。


『我に言われても困るのじゃ。のう、ヘカテーよ。そちらもそうじゃろ?』


『同感』


 どうやら、ヘカテーは口数が少ないタイプらしい。


 同感の2文字以外に、何も付け加えることはなかった。


「あっ、そうだ。自己紹介がまだだったわ。私、黒木千里くろきせんりって言うの。召喚士サモナーよ」


「私は秋山紅葉。職業は近衛兵ロイヤルガードよ。この子はピエドラ。私の従魔よ」


「(〃'ω')ヨロ(〃・ω・)シク(o〃_ _ )oデスッ♪」


「僕は新田響。職業は狩人ハンター。こっちはアラン」


「よろしく頼むでござる」


 千里は紅葉達の自己紹介を聞いた途端、驚いて固まった。


 しかし、数秒後にはちゃんと復活し、紅葉に今思い浮かんだ可能性を訊ねた。


「も、もしかして、秋葉原の近衛兵ロイヤルガード?」


「そうよ」


 紅葉は自分が知られているとわかると、ドヤ顔で返事をした。


 すると、ワナワナ震えてから千里が紅葉の手をグッと掴んだ。


「ありがとう! 私は読み専だったから、掲示板に出ることはなかったけど、いつも大変お世話になってたわ!」


「どういたしまして」


「流石は掲示板のアイドル(笑)」


「やめなさい」


 ゴン。


「痛い」


 紅葉をからかったせいで、紅葉の拳骨を受けたのだから、響の頭が痛いのは自業自得である。


 自己紹介が終わると、紅葉達は情報交換を行った。


 紅葉達は、自分達よりも1日早く潜っていた千里の手に入れた情報を得て、千里は1日分の延暦寺の外の情報を手に入れた。


 それから、千里は紅葉に相談した。


「あの、紅葉ならできるって掲示板に書いてあったんだけど、合成できるってホント?」


「できるわよ」


「それって、モンスターカード同士もできる?」


「・・・やったことないから絶対できるとは言えないわ。でも、それができたら」


「ええ」


「「融合召喚!」」


 紅葉と千里の目が光り、ピッタリと息があった状態で同じ言葉を口にした。


「実は、召喚士サモナーに限って、ダブったカードを重ねると同化して、そのモンスターが強くなるの。でも、融合は私でもできなかったから、紅葉ならできるんじゃないかなって」


「やっても良いけど、融合素材になるカードはあるの?」


「勿論。この3枚よ」


 千里が頷くと、義眼ヘカテーから3枚のカードが吐き出された。


「ヘカテーって、そんな能力があるのね」


「うん。持ち運びが楽で助かってるわ」


「なるほど。じゃあ、カードを見せてもらうわね」


 千里から、紅葉はモンスターカードを3枚受け取った。


 すると、それぞれフレイムライオンとブリッツゴート、シャドウサーペントの絵が描かれていた。


「どう? いけそう?」


「千里が何に合成してほしいのかは理解したわ。もっとも、それが絶対に叶うとは保証できないけど」


「それでも良いわ。やってほしいの」


「わかったわ。【幸運合成ラッキーシンセシス】」


 カラン。


 スキル名を紅葉が唱えると、賽子がどこからともなく現れて5の目が出て、3枚のカードが光に包み込まれた。


 その光の中で、素材群のシルエットが一体化して、1枚のカードへと変わった。


 光が収まると、獅子と山羊と蛇の頭を持ったキマイラが描かれたカードが姿を現した。


《おめでとうございます。個体名:秋山紅葉は、世界で初めて合成系のスキルを使い、モンスターを作り上げました。初回特典として、紅葉に<チャレンジャー精神>が与えられました》


《紅葉の<不曉不屈>と<チャレンジャー精神>が、<臥薪嘗胆>に統合されました》


 神の声が止むと、紅葉は千里にキマイラのモンスターカードを渡した。


「流石は秋葉原の近衛兵ロイヤルガードさん! 融合なんて私達にできないことを平然とやってのけるッ! そこにシビれる! あこがれるゥ!」


「・・・フッ」


「響、言いたいことがあるなら、鼻で笑わずにはっきり言いなさい」


「言っても良いの?」


「やっぱやめとく」


 響に鼻で笑われたことで、イラっとした紅葉は響に食って掛かったが、響の不敵な笑みをみたことで、言いたいことを言わせるのを取り止めた。


「いやぁ、嬉しいわぁ。紅葉、ありがとう!」


「別に良いって。それよりも、召喚してみたら?」


『紅葉、丁度良いタイミングで、モンスターの群れが来てるのじゃ。お披露目をするにはもってこいじゃぞ』


「モンスターの群れね。だってよ、千里?」


「クックック・・・。フハハハハ・・・。ハーッハッハッハ!」


「あれ、僕の目が悪くなったのかな? 紅葉が2人いるみたいだ」


「響、黙ってなさい」


「私のキマイラ無双、見せてくれるわ! キマイラ【召喚サモン】」


 シュイン。


 千里がスキル名を唱えると、モンスターカードが光を放ち、その光が千里の手から離れ、その前方に移動した。


 そして、あっという間に光がキマイラへと変化した。


「ガォォォォォッ!」


 真ん中の獅子の頭が吠えると、キマイラの尻尾が千里を捕まえ、そのままこの場から飛び立っていった。


「あ~~~~~れ~~~~~っ!?」


「お代官プレイしてる場合じゃないでしょうが!」


 紅葉のツッコミは、キマイラに拉致された千里に届くことなく、誰も反応しなかった。


「紅葉、どうする?」


「どうするって戦うしかないでしょ?」


「それは当然。そうじゃなくって、千里と合流するのってこと」


「ごめん、そっちか。合流はしない」


「しないの?」


 紅葉と気の合う千里だったので、てっきり合流しようとするかと思っていたので、予想と反対の答えを受けて響は目を丸くした。


「しない。千里と一緒にいたら、戦って得られる経験値の配分が減っちゃうし」


「あぁ、なるほど。同志の獲得≦自分の進化なんだね」


「まあね」


 紅葉と響が喋っていると、迦具土が2人を注意した。


『紅葉、響、喋っとる場合ではないのじゃ。モンスターの群れが、もう視界に入ってるじゃろ?』


「そうね」


「うん」


 紅葉達の視界には、火車がたくさんやって来るのが見えた。


「火車に炎って効き目薄いわよね」


「燃え上がらせたら、パワーアップしたりして」


「だよね。わかった。装備スキルなしで戦うわ」


「了解」


「じゃあ、ピエドラ、頑張って」


「|||||/( ̄ロ ̄;)\||||||| まじ~~?」


「私が戦えないんだから、ピエドラが頑張るのよ。ほら、GO!」


「ヤレヤレ ┐(´ー`)┌ マイッタネ」


 そんな顔文字で応じつつ、ピエドラは火車に向かって突撃した。


 なんだかんだ言っても、ピエドラは紅葉に頼られることが嬉しかったらしい。


 それゆえ、ピエドラは【溜突撃チャージブリッツ】と【大食ブリミア】を繰り返し使うことで、1体だけで火車の群れに何もさせずに倒した。


 しかし、紅葉達のレベルではこの戦闘でもレベルアップできず、紅葉達はがっかりした気持ちを切り替えて次のモンスターを探すために先に進んだ。

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