第2話 用語解説よろ。いや、チュートリアルか?

 バアルに言われ、【自己鑑定ステータス】と唱えると、奏の目の前に画面が表示された。



-----------------------------------------

名前:高城 奏  種族:ヒューマン

年齢:25 性別:男 Lv:2

-----------------------------------------

HP:10/10

MP:10(+10)/10(+10)

STR:10(+10)

VIT:20

DEX:10

AGI:20

INT:10

LUK:10

-----------------------------------------

スキル:【自己鑑定ステータス】【睡眠スリープ

-----------------------------------------

装備:バアル Lv:2

装備スキル:【サンダー】【道具箱アイテムボックス

-----------------------------------------



「うわっ、ほんとに出たよ」


『おい、信じろよ。俺様と奏は、一心同体なんだぜ? 嘘なんかつかねえよ』


「それもそうか」


『そうだぜ』


「用語解説よろ。いや、チュートリアルか?」


『どっちでも良いだろ、そんなの』


 バアルは奏の発言に呆れた声を出した。


 HPはHit Point(ヒットポイント)で体力を意味し、睡眠と食事で回復する。


 MPはMagic Point(マジックポイント)で魔力を意味し、睡眠、食事、時間経過で回復する。


 STRはStrength(ストレングス)で力を意味し、攻撃力と置き換えられる。


 VITはVitality(バイタリティ)で生命力を意味し、防御力と置き換えられる。


 DEXはDexterity(デクステリティ)で器用さを意味する。


 AGIはAglility(アジリティ)で敏捷性を意味し、素早さと置き換えられる。


 INTはIntelligence(インテリジェンス)で知力を意味する。


 LUKはLuck(ラック)で幸運を意味する。


 一般的なLv1のヒューマンだと、数値がオール5となるのが平均である。


『奏、お前はVITとAGIが高いな。タフな理由は、あぁ、お前のじいさんか』


「多分な。田舎にいた頃は、よく狩りに連れ出されたから、体を守ることと逃げることには定評がある」


 奏は高校まで、山の多い地方に住んでいた。


 父母を幼い頃に交通事故で亡くした奏は、狩人をしている祖父に引き取られて暮らしていた。


 父母の家は都心部にあり、奏も幼稚園に行く前まではそこに住んでいたが、祖父が奏の独り立ちの時まで管理する形で、奏は祖父と暮らすことになったからだ。


 ちなみに、ダンジョンに呑み込まれた家が、その家だったりする。


 祖父は、暇さえあれば寝ようとする軟弱な性格を矯正しようと、奏を度々狩りに連れ出していた。


 祖父は奏を本当に危険になるまで守ろうとしないので、奏は獣にやられないように、体を守ることと逃げることだけは本気で取り組んだのだ。


 その経験が、自分の今のVITとAGIの数値を現していると奏もバアルも納得した。


「それより、MPとSTRの数値の隣に(+10)ってある何?」


『それが俺様の性能の1つだ。MPとSTRを2倍にするんだぜ。すげーだろ』


「すげーけど、わざわざモンスターと戦うことなくね?」


『何言ってんだよ、奏! 折角、俺様がいるんだぜ!? 一狩り行こうぜ!』


 どこぞのハンティングゲームのキャッチフレーズを口にするバアルに対し、奏は溜息をついた。


「何言ってんのは俺のセリフ。危険に飛び込む必要はねえだろ?」


『馬っ鹿、お前。地上は今、モンスターで溢れてる。ダンジョンだってそうだ。もう、地球の文明社会は崩壊してんだよ。そんな世界で生き残るには、強くなるしかねーだろうが』


「え、何それ。本気で言ってる?」


『嘘はつかねえって言ったろ? とりあえず、スマホで誰かに電話してみろよ。無理だろうからさ』


 バアルに言われ、奏は玄関のドアを閉めてから、寝室のスマホを取りに戻った。


 それから、試しに仲の良い同僚に電話したが、電波がなくて電話できなかった。


「マジかよ。欠勤の連絡できねえじゃん」


『おい、この社畜! 奏! ダンジョンの中で電波があるはずねえだろ!』


「待てよ、俺の名前をディスる言葉と並べんな」


『んなことは良いんだよ。なあ、奏。お前本当にそんなんで良いのか? 今のままでいたら、いつまでたっても安全に寝られねえぜ?』


 奏の記憶を読み取っているバアルは、奏にとって譲れない睡眠を盾に戦えと言った。


「それは困る」


『だろ? お前のスキルはアレだが、お前には俺様がいる。俺様とお前が組めば、最強になっていずれは寝放題になれるかもしれねえぜ?』


「寝放題、だと・・・?」


 寝放題のフレーズに、奏は反応した。


 睡眠を愛する者として、寝放題という言葉は何よりもあこがれのある言葉だ。


 今までの生活では、社会人であること、いや、社畜であることでそんなことを実現することは夢のまた夢だった。


 しかし、文明社会が崩壊した今、バアルと一緒に強くなれば、寝たい時に自由に寝られる。


 それが、強者の特権だと奏は理解した。


「悪くない。いや、是非とも寝放題を目指したい。というか、俺のスキルは俺にピッタリだろ?」


『まあな。【自己鑑定ステータス】は、ヒューマンならLv2になれば、誰もが会得できるし、消費MPは0だ。奏の【睡眠スリープ】は、ヒューマンがレベルアップの際に会得できるユニークスキルだ。そりゃ、奏にピッタリだわな』


 【睡眠スリープ】は、自分にも発動できるし、他者にも発動できる。


 自分に発動した場合、起きるまでの間にHPとMPが徐々に回復し、起きた時には全快する。


 ただし、眠りが外的要因で妨げられた場合は、起きてもそれまでに寝た分までしか回復しない。


 他者に発動した場合、HPもMPも回復しないが、その場で寝てしまい、行動不能となる。


「俺が満足してるからそれで良いんだよ。で、バアルのスキルは【サンダー】と【道具箱アイテムボックス】だっけ?」


『おうよ。【サンダー】は、狙った場所に雷を落とせる。【道具箱アイテムボックス】は、無生物を収納できるんだ』


「ラノベのお約束だと、【道具箱アイテムボックス】で収納すれば、収納先の時間は止まってるんだが、バアルはどうなんだ?」


『当然、お約束通りだ。俺様にかかりゃ、奏の家丸ごと収納できるぜ』


「マジか・・・」


 奏が今までに読んだラノベでは、序盤から家を収納できるようなことはなかった。


 そんな桁違いの収納力に、奏は言葉を失った。


『どうだ? 俺様といれば、休みたい時に家も出せるし、食糧だって腐らせずに溜め込める。すげーだろ?』


「そりゃすげーわ。見直した」


『・・・畜生。これが俺様由来のスキルじゃなくて、スプリガン由来なのが腹立つぜ』


「バアルがモンスターカードを吸収して、そのモンスターのスキルを使えるのは、バアルの力なんだろ? それなら別に良いじゃん」


『それもそうか』


 褒められたのが、スプリガンのスキルだったことに不満はあるものの、それを奪えるのは自分の力だとフォローされ、バアルは機嫌を直した。


「それで、スキルを発動するには、MPを消費するんだよな?」


『当然。俺様の装備スキルも、奏のMPを使って発動するから、MPの管理もしっかりやれよな』


「あいよ」


 用語解説が終わり、奏はとりあえず着替えることにした。


 バアルの言うことを信じ、奏は家の外に出ることにしたからだ。


 モンスターを倒し、寝放題の夢を叶えるため、奏は強くなろうと決心したのだ。


 幸い、男の一人暮らしとはいっても、食糧の備蓄はそれなりにあったので、当面は困らない。


 だから、動ける服装に着替え、すぐに必要になりそうな荷物は茶色いリュックに詰め、それ以外は【道具箱アイテムボックス】で収納することにした。


 全ての準備を整えた奏は、迷彩柄の上下に深緑色のポケットのたくさんあるベスト、茶色い軍靴と完全な戦闘態勢だった。


 ただ、違和感があるのは、そんな奏の手にはバアルが握られてることだろう。


 とにかく、準備は整ったので、奏は家を出て、家を丸ごと【道具箱アイテムボックス】で収納した。


 【道具箱アイテムボックス】で収納するには、大きさに応じて消費するMP量が違うのだが、奏の家はMPを5消費した。


 バアルがいなければ、家を収納するだけで半分はMPを失うことに気づき、奏はバアルの存在に感謝したが、それを言えばバアルが調子に乗るから口にしなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る