第6話 チュートリアル『ボスモンスター』

「はい、モンスターを倒しましたが、安心してはいけませんよ。この『エリア』ではボスモンスターを倒すまでは、攻略完了クリアとはなりません。まだまだモンスターがいるハズですよ~」


 ゼペルさんの忠告に従って、警戒する様に辺りを見渡す。


「…いない」


「そういう時は、辺りを探索して見ましょう。だだっ広い平原でも隠れる場所はあるものです」


「♪」


 今気が付いたけど立ち止まっている間、スノーは足元で転がっていた。餌をあげた事で少しなついたのかもしれない。


「おや~?」


 ゼペルさんがワザとらしい口調で、どこか遠くの方に視線を送っている。


「あれはボスモンスターです!」


 視線の先に小学生の身長程の土煙が上がり、視界に緊急事態Emergencyと赤く点滅する。


「なっ…演出か」


 少しビックリしたけど、ボス出現の演出だと自分を落ち着ける。


「あれは、ボスモンスターの『ビックラビット』ですね。…バグかな?」


「え?」


 不意に現れたボスモンスター『ビックラビット』は、スノーを視認する奇怪な雄叫びを上げた。


「来ますよ!」


「っスノー!」


 スノーは、自分目掛けて突進するビックラビットの巨体をスレスレで躱す。


「巨体に似合わず素早い」


「ウサギですからねぇ」


 ことゲームに於いて、ウサギは素早い物だ。ラビット系の装備は、俊敏に追加効果を加算する物が多い。現実では兎も角、ゲームでは素早い物なのだ。たとえそれが全長二メートルを超える巨大なウサギであったとしてもだ。


「あれスノーで勝てる相手なの?」


 一瞬、頭に負けバトルの存在が浮かぶ。


「今のままでは無理ですね~」


「チュートリアルなのに負けバトル?」


「この世界にそんなものありませんよ~」


 負けバトルじゃないって事は、勝つための方法が用意されているハズだ。


 とにかく攻撃してみるかな。


「スノー、体当たりだ!」


「!」


 スノーは決死の体当たりを敢行する。


 今はスノーが時間を稼いでいる間に策を練る。フィールドは平原で遮蔽物どころか、木の一本もない。地面には小石や背の低い草が生えているだけで、利用できそうなギミックは見当たらない。


 利点を上げるとすれば、広く動きを邪魔されない事から素早さを活かす戦いが出来る事だろ。


 だがスノーは生まれたての赤ちゃんドラゴンだ。素早い動き所か、歩くのがやっとだ。フィールドの利点はむしろビックラビットの方にあると言える。


「…!」


「スノー!」


 思考の海の中、勝つための方策を探していた俺の元にスノーが転がって来た。


 ハッとして、ビックラビットを視界に入れる。度重なるスノー攻撃でも大したダメージを与えられていない。


 対してスノーの体力は、一桁台にまで落ち込んでいた。


「このままじゃマズイ……スノー!」


 撤退をしようとゼペルさんに声を掛けようとした。そこまでは何の問題もなかったのだが、そこでビックラビットが僕ら目掛けて突進を行おうと走り出していた。


 咄嗟にスノーを抱きしめると、ドスンっと荷物が投げ出された様な鈍い音が頭に響く。


 そのまま眠りに陥る様に意識が遠くなった。

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