第5話 チュートリアル『エリアマップと戦闘』
ポムっと擬音語のエフェクトを出しながら手を叩いた。
「すっかり忘れていましたが、雑誌特典のスキルはどうしましょうか?」
雑誌特典でくれると言っていたスキルの事は俺自身も忘れていたので、思い出してくれただけ有難いのだが、このゼペルさんはうっかりが多分に過ぎる気がする。
「貰えるだけで嬉しいんだけど?」
欲を言えば、スノーを育てるのに役に立つスキルならもっと嬉しい。
チラッと足元にゴロゴロと転がるスノーに目をやる。
「…♪」
何を考えているのか全く読めないが、楽しそうな感情が伝わってくる。
「うーんっと…β版参加特典より効果が高いのはマズイので……よし、このスキルにしましょう!」
≪スキル【モンスター・ファミリア】を覚えた≫
「…モンスターファミリア?」
ファミリアと聞くとギャングやマフィアを連想してしまうが、家族とか親しいと言った意味だったと思う。
「このモンスターファミリアを覚えていると、従魔の忠誠度を上げるのが少し楽になりますよ!」
忠誠度と言うよりも好感度の方が正しいような気もするが、希望していた育成に役立ちそうなスキルなので内心でガッツポーズを取った。
「さてさて、それではお待ちかねの戦闘チュートリアルです。この『モンスター・バトル・フロンティア』には、大きく分けて二つの戦場があります。『エリアマップ』と『闘技大会』です」
「大会かぁ…」
オンラインゲームお馴染みのPvPを始めFPSなど、プレイヤーと対戦するゲームを俺は苦手としている。自分のプレイヤースキルに自信がないのは当然の事、いきなり知らない人プレイヤーと会話を行える程のコミュニティ能力が俺に備わっていないからだ。
「少し前にお話しした様に大会に関しては別のチュートリアルですから、一先ず置いておいてください。では、メニューを開いてください」
「メニュー?」
口にして気が付いたが、表示させる方法を聞いていない。
ゼペルにメニューの出し方を聞こうとした瞬間、自分の視界にウインドウが飛び出してきた。
「うお!?」
つい、自分の口から変な声が漏れ出てしまった。
少し恥ずかしい。
「メニューを出せたようですね。今の所はメニューを表示させる方法は、プレイヤーの口からメニューっと発してください」
「音声だけ?」
「そうです。戦闘中はメニューを開く事が出来ないので、メニューを操作している間に戦闘が発生する事もないですからね。ではメニュー画面をご覧ください」
「あ、はい」
勧められるままにウインドウに目を落とす。
「メニュー画面の『移動』にタッチしてください。『アジト』『エリアマップ』『フロンティア』の三つが表示されているかと思います。今回はチュートリアル戦闘を行うので『エリアマップ』から、『チュートリアルエリア』にタッチしてください」
「えっと…行先で『エリアマップ』にタッチして『チュートリアルエリア』っと」
言われるがままにメニューを操作していると≪チュートリアルエリアに移動しますか?YES/NO≫の表示が現れた。
「ではチュートリアルエリアに移動しましょう!」
彼女の言葉に小さく頷いて返事を返すと、YESの文字に手を伸ばした。
♪
「ここがチュートリアルエリア?」
YESにタッチして視界が真っ白になったかと思ったら、何時の間にか周りには何もない平原にポツリと立っていた。
「そうですよ。戦闘チュートリアル専用エリアで、ベーシックな平原エリアになっています」
音もなく背後から現れたのは、チュートリアルの案内人ゼペルさんだった。
「では早速戦ってみましょうか」
ゼペルさんの声と共に地面の一部が光り出した。
光が収まったと思ったら、小さな蛇がニョロニョロと動いている。
「ヘビ?」
「……?」
スノーは何処か警戒しているように見える。
「レッサーミニスネークです。モンスターとは名ばかりの
「あ、そうなんだ」
蛇型のモンスターと言えば、状態異常代名詞『毒』が真っ先に頭に浮かんだ。それが無いなら生まれたてのスノーでも何とかなるかもしれない。
小さいしな。
「チュートリアルエリアには一度だけしか挑戦できないので、やりたいだけやるのがオススメですね。では戦ってみましょう」
「分かった」
ゼペルさんの言葉に頷きながら返事を返す。
「まず知って置いてもらいたいのは『モンスター・バトル・フロンティア』では、テイマーが直接戦闘をする事が出来ないって事です」
ゼペルさんは人差し指をピンっと伸ばしながら、説明を始める。
「基本的に戦闘は自動…パートナーのモンスターが、自分で判断して戦います。もちろんテイマーはその様子を見ている訳ですが、ただ見ているだけではありません。HPが少なくなったパートナーにアイテムを使ってHPを回復させたり、自分のパートナーに指示を出してスキルを発動させたりするのです」
「なるほどな」
昔からあるモンスター対戦ゲームのVR版という事か。だとすると従来の向き合って戦うゲームと違って、自分たちの位置取りなんかも重要になって来るな。デジタルなモンスターを育成するゲームだと戦闘時にテイマーの場所が強制的に固定されていたが、広い場所ならともかく城の中とか違和感で気持ち良くプレイ出来なかった。
「ではスノーちゃんに戦ってもらいましょう!」
暫らく懐かしいゲームに思いを馳せているとゼペルさんが、チュートリアルを進行させてしまった。
≪チュートリアルバトルを開始します≫
「…!」
「シャー!」
今まで何もせずにジッとしていたレッサーミニスネークが、初めて声を上げスノーを威嚇する様に頭を持ち上げた。
その行動に驚いたのかスノーは体制を崩しゴロンっと倒れてしまった。
ちょっとカワイイと思ってしまったのは、親の欲目だろうか?
「早速スノーちゃんに指示を出してみましょう」
「し、指示って急に言われても!?」
俺は高校に入学したもののクラスメイトと積極的に関わろうとせず、ボッチライフを満喫していたしがない高校生である。中学時代もこれと言って目立たず、人に指示を出した経験など皆無なのだ。
「あ、スノーちゃんが起き上がりましたよ。基本的には、パートナーの持つスキルを使うように指示すれば良いんですが」
「スキル…何覚えてたっけ!?」
スノーのステータスを確認しようとしてハッとする。
「戦闘中じゃ、確認できねぇぇぇ!?」
戦っている最中に従魔と触れ合っている時間など無いのである。しかし、ステータスを見る為には従魔に触れていないといけない。
「今回の事を教訓にして、パートナーのスキルくらい覚えておきましょうね?」
因みにスノーちゃんの攻撃スキルは【体当たり】と【魔力吸収】ですっと付け加える彼女は、どこか冷めた目をしていた気がする。
「…す、スノー【体当たり】だ!」
「!」
焦りながらもスノーに指示を出すとスノーは、敵モンスターに向かってテコトテと走り出した。殻が大きいからだろうか、速度は遅かった。
スノーはレッサーミニスネークに接近すると、駆け出した速度のまま体当たりを繰り出した。鈍い音と共に水波レッサーミニスネークは、開いていた大口にヒットしたのか牙が折れている。
「うーん、今のは【体当たり】と言うより【タックル】ですねぇ」
「良し、もう一度【体当たり】だ!」
「!」
今度は相手が直ぐ傍にいる為に移動する必要が無く、スノーは指示を直ぐに行動に移した。足を器用に動かし体をレッサーミニスネークに当てた。
二度目の体当たりが炸裂した瞬間にレッサーミニスネークは光を放って消えて行った。
「あ、倒した?」
「うん、倒したみたいだね。戦闘のチュートリアルはこれで終わりかな?」
「…!」
初めて敵と戦った後に残ったのは、レッサーミニスネークが消えた後を呆然と眺める俺と早々にチュートリアルを進行しようとするゼペル。そして、体を大きく右に傾けて勝利のポーズ?を決めるスノーの姿が。
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