第4話 ドラゴンエッグ

モンスター・エッグから生まれたのはドラゴンエッグでした。


「いや、産まれてねぇよ!?」


 何だよ!?


 卵から卵って、マトリョーシカかよ!?


≪生まれたモンスターに名前を付けてください≫


 システムの音声に我に返る。


「名前…名前か」


 問題のモンスターを見やるとモンスター・エッグより大きく見える。どうして卵の中から、卵より大きなモンスターが出て来たのかと不思議に思ったがドラゴンエッグの足元・・を見て納得した。


 そう足が生えているのである。


 卵から足が。


「ゼペル…ドラゴンってなんだろうな?」


「私に聞かれても…ドラゴンはドラゴンですし」


 素気無く返されてしまった。


 とにかく今はこのドラゴンエッグに命名をしなければならない。思い浮かぶのは、生まれる前に見た水色の卵。


 水、アクア、流体、固体、凝固体、氷、氷の結晶、雪……。


「スノー?」


≪ドラゴンエッグの個体名を『スノー』に設定しました≫


 あ?


「……!」


 当の本人は嬉しそうに地面の上を転がっている。


 嬉しそう?


 っと頭を悩ませていると、ゼペルが説明してくれた。


「卵から生まれたモンスターの中には、身振り手振りでの意思疎通が困難な子もいるので、テイマーにはパートナーの気持ちが何となく分かる様になっているのです」


「なるほど」


「ではパートナーのステータスを確認してみましょう。スノーちゃんに触れて『ステータス』と唱えてください。触れていない時に『ステータス』と唱えると自分のステータスが表示されますよ」


 言われるが儘にスノーの頭に手を乗せてステータスと唱える。



名前 スノー ♀

レベル 1 ランク 1 系統 【幻想】

種族 ドラゴンエッグ

属性 水

HP   50

MP   50

筋力  5

防御  10

器用  1

知力  5

精神  5

素早さ 1

運   10


忠誠度 10

スキル

 アクティブ

 【体当たりLv1】【魔力吸収Lv1】

 パッシブ

 【水の魔力Lv1】


称号 【第一の従魔】


好物  魔力 (水)

嫌いなもの なし



「ほー」


 スノーのステータスが高いのか低いのかは分からなかったが、何もない処から何かが浮かび上がって来るのは素直に凄いと思う。SF映画で立体映像という物があるが、この『リンクス』で繋がったゲーム世界では当然の様に存在している。映像というよりも画面なのだが、出しっ放しにしていれば数字の変動がリアルタイムで確認できるそうなので、映像も見られるのかもしれない。


「ステータスで分からない点は何かありますか?」


 ゲームが好きな層には、分からない事以外の説明を飛ばしたいと急かすプレイヤーもいる。ステータスを凝視して動かないユウを心配して、ゼペルが気を利かせ質問を煽る。


「あ、えーと。忠誠度から下の項目…かな?」


「はい、順に説明しますね。忠誠度は、どれだけ自分のテイマーを信頼しているかを無理やり数字に当て嵌めたものです。最大値が100に設定されていますが、表示上の上限なのでそれ以上は上がらないと言う訳ではありませんので、大事に育ててあげてください。マイナスもありますよ」


 マイナスあるの!?


「次にスキルですが、これはモンスターの攻撃手段であったり、生体であったり色々です」


 …………あれ、終わり?


「それだけ?」


「そうですね…スキルの獲得方法は進化させる。訓練で覚えさせる。アイテムでスキルを覚えさせる。いつの間にか覚えているの四種類ぐらいでしょうか…あ、イベントで覚える事もあるかも?」


 そんな?(はてな)マークを頭上に出現さてながら、頭を傾けられても困るんですけど!?


「えっとスキルのレベルとか…」


「あ、スキルは大体レベルを持っていて使えば使うだけ経験値が溜まります。経験値が一定以上溜まるとレベルアップしてスキルの効力や威力がアップします。最大レベルまで上昇するとスキルが進化するので、お楽しみに!」


 とても重大な説明でした。


 もしかしてここで聞かなかったら、自分で気づくしかないのかな?


「…スキルが覚えられるのは、何個まで?」


「習得個数には上限は在りませんよ」


 には?


「上限があるのは?」


「大会でのスキル個数制限がある場合があるので、その時は使わないスキルを凍結する事になります。大会終了または敗退後に、凍結されたスキルは自動で復活します」


 そのスキルが使えないのは大会の間だけらしいので、特に害になる物でもなさそうだな。


 習得上限がないのは有り難いが、相反する能力を持つとどうなるか分からないので、そこ注意した方が良いだろう。


「大会?」


「参加できるようになったら、また案内に来ますよ。それまではお預けです」


「わかった。続きを頼む」


「続き…称号は偉業や立場、達成した事などを始め、悪行とか悪い事をした時にも追加されます。基本的にはステータスにプラス効果が有るのですが、マイナス効果もあるので自分の行いには注意しましょう。…あ、これはテイマーの称号でした」


「…おい」


 なんとなくそんな気がしていたが、ちゃんとモンスターの方の称号を説明して欲しい。


 有益な話ではあったのだが。


「モンスターの称号は…実績と能力ですかね。スノーちゃんが持っている【第一の従魔】は実績ですし」


「へー…好物はそのままだろうけど、魔力ってどうやって識別するんだ?」


「ああ、そうでした。ドラゴン族は魔力を好んで食べるので、ショップで購入できるエサでは口に合わないんです。なのでドラゴンを含む魔力を食料とする種族のテイマーには、こんなスキルが贈られます」


≪スキル【魔力操作】を覚えた≫


≪スキル【魔力感知】を覚えた≫


≪スキル【魔力識別】を覚えた≫


「三つも!?」


 もらえも魔力を譲渡するスキルだと思っていたのだが、有用そうなスキルを三つも習得してしまった。


「魔力操作を覚えないとご飯を上げられないし、魔力感知ができないと自分の何処に魔力があるのかわからないし、魔力識別がないと魔力の属性が解らないから、種族によっては毒になりえる。当然このスキルは他のテイマーも覚えられるから、不公平ってことはないです。スキルを渡して貰えるのは、最初に魔力を餌とするモンスターをパートナーとして迎えたテイマーだけですけどね。それ以降は何処かのショップで販売されているから、スキルの入手は可能ですよ」


「そ、そうですか」


「試しにスノーちゃんにご飯をあげてみましょう。【魔力感知】と【魔力識別】はパッシブスキルと言って、常時発動しているから何となくわかると思います。後は魔力操作】と口にするだけです」


 言われて何となくお腹の辺りの暖かいモノに気が付いた。そこに目を向けると、ほんのりとオレンジ色がついていた。


 魔力操作と唱えると、少しずつ動かせるようになってきた。


 スノーの頭に手を乗せると、スノーに魔力を与えるイメージをする。


「…!…♪」


「美味いか?」


 スノーは喜んでいるのか、短い脚を使ってピョンピョンと跳ねる。


 渡し難いから、動かないで欲しい。


「それじゃ次は、戦闘をしてみましょう」


 チュートリアルは、まだまだ終わらないようです。

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