第2話 勇者と魔王

「君は勇者と魔王をどう思う。」

「勇者と魔王?」


 魔法使いはお菓子の袋を開けながら子供じみたことを訊いてきた。


 俺は昨日の約束を守るため今日も魔法使いのレイのもとに来ている。俺が来たときレイはとても喜んでいた。こないとおもっていたらしい。本人曰く「魔法使いを怖がって大抵の人は来なくなる」というのだ。

 目の前で口いっぱいにお菓子を詰め込んで幸せそうにしている魔法使いにどう恐怖したらいいのだろうか。


 口いっぱいのお菓子を飲み込み魔法使いは話を続ける。

「そう、みんなが知る勇者と魔王だよ。この場合、君はどちらの敵でどちらの味方なんだい?」


「そりゃあ、もちろん勇者の味方で魔王が敵ですね。まぁ、逆の人もいると思いますけど、今は魔王が主人公の物語もありますから。」


「いや〜、普通だ。とても、その普通がありがたいよ。私の話がスムーズに進む。」


「バカにしてますよね。」そう言うと「いやいや、してないよ。」と笑いながらはぐらかされた。


「まぁ、けれどもそれを当たり前だと考えていることこそが一番恐ろしいんだよ。」


そう言って、淹れたての紅茶に口をつける。その姿はとても綺麗だったがどうしてもお菓子を口いっぱいにほうばってた姿が頭に残ってしまっている。 


 そうして、マグカップを静かに置いたあと立ち上がり奥の本棚から一冊の本を持ってきた。


「君は異世界ファンタジーものは読んだことがあるかい?」


魔法使いはそう言って本を開いた……



 ある世界に勇者と魔王が存在していた。

勇者は魔王を倒すことを国王に命じられ仲間とともに魔王を討伐すべく冒険にでた。

しかし、勇者は魔王が送り込んできた四天王と呼ばれる魔物と戦いで一人の仲間を失い悲しみに呑み込まれそうになるも仲間と助け合いボロボロになりながらも勝利を納めて魔王の元へと向かった。

 玉座に座る魔王からはとてつもない力が感じられた。勇者は「この戦いを終わらせる!」そう言って最後の戦いに挑んだ。


ここで魔法使いは本を閉じた。


「続きは読まないんですか?」


結末の前に物語を終わらせた彼女に訊いた。


「あぁ、読まないとも。読んでしまえば君は固定概念に囚われてしまうからね。まぁ、ここ以外にもはぶかせてもらったとこはあるが…さぁ、ここからは空想のお話だ。」


そう言って魔法使いはニヤリと笑い、木のテーブルに本を置いた。

「今の物語を読んで君はどう思う?勇者が希望に満ち溢れていてカッコイイかい?それとも仲間を失った勇者に同情するかい?」


魔法使いの真っ赤な瞳に俺が写る。


「なにが言いたいのかわからないですが魔王を倒して平和になったんならいいと思いますよ?」


「そうだね、確かにそうだ。結果として平和になればなんの問題もない。でも、私はこの勇者に訊かなければならないことがあるんだ、なんだと思う?」


 ここまで苦しんで戦い抜いてきた勇者に訊くこと…いくら考えても答えはでない。


「答えは どうして君は魔王を倒すと平和になると思ったんだい?だ。」


魔王を倒すと平和になると思ったのか?。そんなことを訊かれた勇者はどう答えるだろうか。


そうすると彼女はもう一度本のページをめくった。

「まず、この物語の欠けているピースをはめていこう。1つ目は魔王を倒さなければならない理由だ。この本には魔物が人に害を与えたためその生みの親である魔王を倒しに行くというふうに書かれている。」


魔法使いはわざと読まなかった部分を言葉に出した。


「これは確かに正当な理由だろうと私は思うよ、自分たちに害を及ぼすものを排除しようとするのは生物としては当たり前の行為だと言える。ただし、それはこの勇者が魔王を殺していい理由にはならない。」


その言葉に大きな疑問を覚えた。

「どうしてです?魔物を生んだのが魔王でその魔物が人間の害になるのなら生んだ張本人を倒すのは当たり前じゃないですか?」


「それは確かにそうだ。じゃあ、ここにもう一つ設定を加えよう。」


そう言って、レイが本のページを指でなぞるとそこに新たな一文が現れた。


[魔王が存在する場合、魔物は自動的に発現する。]


「この場合、魔物は魔王が自的に生み出したものではないことがわかる。それこそ、私が今食べたお菓子の袋のような感じた。その場合、本当の敵はどちらかな?」


この場合、最終的な悪は無惨にも魔王とその下僕を殺した勇者だと言えるだろうか。いや、魔王の意図とは関係無い被害を浅はかな考えで魔王のせいにした国王が悪なのか。


考えても考えても答えが見つかることはなかった。しかし、こうなった原因だけは理解できた。


「魔王を敵に回したのは人間の恐怖という感情から。」


「おぉ、すごいね。よくわかったね。花丸あげたいぐらいだよ。」


わざとらしく褒めた魔法使いに俺は「そりゃどうも」っとそっけなく返した。


「そうさ、国民が怖がってたのは魔物。だけど、国王が怖がってたのは魔王でも魔物でもなく人間…この場合国民だね。」


「国王は国民が恐怖で混乱して被害が出たときの責任を押し付けられることを怖がって国で共通の敵を作ったのか。そして、その敵として一番上げやすかったのが魔王か。」


 被害を受けたのは勇者と魔王の両方であり。

この国王も自らを守るため選択肢を増やすことなく決断し。最後まで誰も本当の敵と戦うことができなかった。


「まぁ、全部空想の物語だよ。どこにもそんなことは書いてないし、もしかしたら魔王は本当に倒さなければならないほどの敵だったのかもしれない。ただ、今、君が考え思ったこと全ては事実なんだよ。」


 外はいつの間にか日が傾き、ポツポツと外灯が光始めていた。


 俺は今日も不思議な本屋で魔法使いと明日また会う約束をした。

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魔法使いと物語探検記 成れ果てのクマ @417watanabeyou

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