魔法使いと物語探検記
成れ果てのクマ
第1話 行きつけの本屋
本には人の歴史、人の紡いだ想い、人の願いなどの多くのものが詰め込んである。それがフィクションだとかノンフィクションだとかそんなことどうでもいいことだ。問題はそこから何を読み取り何を得られたかだけだ。
ただ、そんなことを考えて本を読んでいる人がこの世に何人いるだろうか。少なくとも
俺はそうではなかっただろう彼女に……あの魔法使いに会うまでは。
強い日差しがアスファルトを照りつけ、ジワジワと熱気が伝わってくる、俺はシャツの袖で額の汗を拭った。
学校が長期休みに入ったとき絶対にやらなければならなくなる読書感想文の本を買うため、この暑い中、本屋を目指して歩いている。
数分後にスマホを開きもう一度近くにある本屋を調べた、家を出るときは少し遠くにあるショッピングモールの中の本屋を目指していたがあまりの暑さに心が折れてしまい、藁にもすがる思いで検索をかけた。
すると、一軒の本屋の情報が表示された。さっき調べたときはなかったような気がしたが
そんなことを考えるよりこの暑さから逃れることの方が必要だと思いとりあえず向かうことにした。
スマホの指示通り歩くと一軒の古い木造りの本屋が目に入った。住宅街に囲まれて建っているが独特の雰囲気を醸し出しているためわかりやすい、店内にはいると涼しい風とともに本屋特有の紙の匂いが鼻につく、内装はとても綺麗で外見よりも広く感じた。
大きな本棚がいくつもあり、これは探すと大変だなと考え店員を探した。
少し歩き回るとカウンターの席に座り本を読む長い白髪の小柄な少女が目に入った。ここの本屋の娘さんだろうと思い、もう少しまてば店の人が来てくれるだろうと考え本棚にあった本を手に取りページをめくりはじめた。
「ほう、この本屋に人が迷いこむとは珍しいこともあるのだな。」
本を読むことに集中していた俺は人が近くにいることに気付かずにその声に驚いてしまった、振り向くと先程カウンターにいた少女がいた。
人が迷いこむとかなんとか言っていたがそういうファンタジーが好きなんだろうか。手元の本を本棚に戻しながらそう思った。
「ごめんね、ここのお店の人を呼んできてもらってもいいかな。」
腰低くして話し優しくかけると少女は「呼ぶも何もこの本屋には私一人しかいないぞ?」と不思議そうに言った。
一人しかいない?親御さんはどこかにでかけてるのだろうか……
「じゃあ、帰ってきたら言ってもらえるかな。」
「帰ってくる?さっきからなんのことを言ってるかわからんが私がこの本屋の店主だ、聴くことがあるなら私に言ってくれ。」
「店主?」
「あぁ、店主だ。」
俺の頭は夏の暑さでやられてしまったのだろうか…そう考えていると目の前の少女はなにかに気がついたのか「あぁ、そうかそういうことか」と言って一人で納得していた。
「これはすまない、私が悪かったな。この姿では子供と間違われても仕方がない。」
そういった少女の身体が光に包まれ、あっという間に大人の女性へと姿を変えた。
俺は信じられないことを目の当たりにし、驚きのあまり言葉を失ってしまった。
「驚くのも仕方ない、信じられないと思うが私は魔法使いだ。まぁ、とりあえずゆっくりお茶でもしながら話そう、私もひさびさに人と話せて嬉しいんだ。」
それから、お茶を飲みながら彼女の話を頭で整理した。
まず、彼女が魔法使いであること、この本屋は普通は入れないこと、魔法がこの世界にももともとあったということ。
彼女が話す全てのことが俺には信じられなかったが魔法を目の前で見てしまった以上彼女が魔法使いであることは真実なのだろう。
「じゃあ、どうして普通は入れない本屋に俺は入ることができたんだ?」
お茶を汲む彼女に質問した。
「う〜ん、そうだな。この本屋は私の魔法で見えなくなっているんだが……そうだ!確か強く願われたときだけ見えるようにしたはずだ。お前はいったい何を願ったんだ?」
俺はこれまでの経緯を話した。読書感想文の本を探していたこと、この本屋を調べたときとにかく涼しいところを求めていたこと。
そうすると、彼女は大笑いして言った。
「魔法使いの本屋に願ったのが冷房がある涼しい部屋だとはな。」
あまりに笑うものだから俺は少し恥ずかしくなってしまった。
「まぁ、いい。そんな事より本を探してるんだな、幸いこの本屋は私の揃えた面白い本がたくさんある、どれでもいいから好きなのを持っていくといい。お金はいらん、あってもしょうがないからな、その代わり明日も来て私の余談に付き合ってくれ。」
「それだけでいいのか?」
「それだけで十分だ。」
笑顔で彼女はそう答えた。
「おっとそういえば名乗り忘れてたな、私の名前はレイだ、これからよろしくな。」
魔法使いと変わった約束をした俺は本一冊を持ち、本屋をあとにした。
こうして魔法使いがいる不思議な本屋はいつしか行きつけの本屋となるのだった。
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