どうして?



 次の日。

 鈴木さんは、学校を休んだ。

 いつも待ち合わせていた場所に居なかったから、予想はしてたけど。


 ラインも既読つかなくて、昨日は一睡もできなかった。

 今この瞬間、鈴木さんが泣いていると思うだけで居た堪れない気持ちになって。俺がこんな状態になってどうすんだか。


 そうそう、奏が帰ってきて色々話したらブチ切れてたっけ。宥めるのが大変だった。

 でも、俺がもっとしっかりしてたら……遊んでなかったら起きなかったことだ。悔やんでも悔やみきれない。


「青葉ー。鈴木、風邪だって」

「みたいだね」

「珍しいよな。今まで休んだことないのに」

「そうなの?」

「あ、いや。別に、ストーカーとかじゃなくて」


 こういう気分の時、眞田くんがいると安心する。


 そういえば鈴木さん、眞田くんのメイク姿喜んでたな。教えてあげよう。


「鈴木さん、眞田くんのメイク姿絶賛してたよ。ほら」

「マジか! 嬉しい。青葉はすげーよな」


 スマホ画面を見せると、予想以上に喜んでくれている。このメッセージ部分、後でスクショして送ってあげよう。鈴木さんに許可もらってから……いや、今は無理か。


 全然すごくないよ。鈴木さんを泣かせてしまったんだから。


「席につけー、授業始めるぞー」

「やべっ、宿題やってねえ!」

「写す?」

「マジ? ちょっと貸して。すぐ返す!」

「どうぞ」


 見ると、篠田さんたちも暗い顔して何か話してる。

 あっちは、何があったんだろう。こんなことになるなら、聞いておけばよかったな。


 夏休みまで、あと3日。

 このまま長期休みに入るのは嫌だ。どうにかして、誤解を解かないと。



***



「梓ちゃんは?」

「……」

「ねえ、梓ちゃんは?」


 放課後、いつもは鈴木さんのところに来る牧原先輩が、なぜか俺の方にやって来た。……川久保さんのところへ聞きに行けば良いのに、なんで?

 しかも、毎回毎回勝手に教室入って。この人は、自由すぎる。


「……なんで俺に聞くんですか」

「一番知ってそうだから」

「はあ。……今日は風邪でお休みです」

「仮病?」

「はっきり言い過ぎ。色々あったんですよ」

「……屋上行こうか、芸術棟の。話そう」

「別に、話なんて「僕がしたい。あと、ケーキ作ってきちゃったから食べて」」

「はあ。……眞田くん、悪いけど先に帰っててくれる?」

「おう」


 本当は、眞田くんと帰る予定だったんだけど。鈴木さんへのプレゼント、一緒に選ぼうと思ったんだけど。

 でも先輩は、何か話したいことがあるらしい。鈴木さんに関係することなら、聞かないとね。


 眞田くんは、俺と先輩を不思議そうに交互に見ながら帰り支度を進めている。後で、ラインで謝っておこう。


「ケーキ、不味かったら帰ります」

「その理屈だと、僕とずっと一緒にいることになるよ?」

「そういうのは、女の子口説く時に言ってください」

「おや、口説かれてる自覚あるんだ」

「……うっせぇ」


 確かに、この人のケーキは美味しい。それは、認めよう。


 カバンを持った俺は、先輩と一緒に芸術棟へと向かう。



***



 ソラ先輩、私と目を合わせてくれなかった。


 私は、教室に入ってきたソラ先輩を見て「昨日はごめんね」って言いにきたのかと思ったのに。でも、違った。

 先輩は、真っ直ぐ青葉の方へ行ったんだ。あの2人、そんな仲良かった?


「ふみか、帰ろう」

「いいよ」

「今日、タピオカ屋さん行く! 甘いものが食べたい」

「……今日は、マリの好きな店員さん居ないよ」

「え〜。居るかもしれないじゃん」

「居ない。絶対に」

「じゃあ、居たらタピオカ奢ってね」

「いいよ」


 逆は要求しないよ。

 だって、その店員の正体を知ってるからフェアじゃないでしょう?


 マリは、ジャンプして喜びながら由利ちゃんの方へと駆け寄る。


「由利ちゃんも行く?」

「ごめんね、今日はいいや」

「わかった! また今度ね」

「うん。ありがとう」


 今日は、みんなバラバラだった。

 詩織は部活の引き継ぎが忙しくて、由利ちゃんは図書室で本を読むって言って。……きっと、梓の話で気まずいからだろうな。まさか、休むとは思ってなかったし。相当傷つけちゃったってことだよね。

 そんな見られたくなかったら、ちゃんとした格好すれば良かったのに。


 なんて、自分の行動を棚に上げて梓に文句言うのは違うってわかってる。昨日、先輩に言われた言葉を一晩かけて考えたから。

 でも、もう起きちゃったんだから遅い。梓が謝ってきたら、私も謝ろう。それで良い。


「じゃあ、また明日ね!」

「バイバイ」


 私は、由利ちゃんに手を振りつつマリと一緒に教室を出た。


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