恋は気持ちの上げ下げを大きくする


『今日、佐渡さんと話があるから、先に帰ってもらっていいかな』


 放課後、ホームルームが終わって帰りの用意をしているところに、青葉くんからラインが入った。

 そのメッセージを見た瞬間、胸の奥がズキッと痛み出す。


「……やだな」


 理花と、何話すの?

 体調悪くなるくらい怖がってたのに、青葉くんは理花に会いに行くの? どうして?


 私は、そのラインに返信が出来ない。どうしても、「わかった」と送りたくなかった。


 このタイミングで会うってことは、理花にも手作りケーキ用意してるのかな。

 そう思って青葉くんの机の上をチラッと見ると、小さなケーキ箱が乗っていた。やっぱり、私だけじゃなかったんだ。わたしのためにーなんて、勘違いするところだったわ。恥ずかしい。


「鈴木さん?」

「……青葉くん」


 どう返信しようか考えながらスマホ画面を見ていると、青葉くんが声をかけてきた。真っ直ぐこちらに向いている視線に耐えられず、私はそのままスマホ画面を凝視する。

 だって、今すごく嫌な感情が自分の中にあるんだもん。それを、青葉くんに知られたくない。


「大丈夫? 1人で帰れるかな」

「だ、大丈夫。1人で帰れるわよ、何歳だと思ってるの」

「わかったよ。……後ね、その、佐渡さんに、テストで上位取ったらお願いひとつ聞いてって言われて。俺の作ったお菓子食べたいってお願いだったんだけど、それ聞いてくれたら仕事量を調「そ、そうなんだ! 理花、頑張ったって言ってたから、ちゃんと叶えてあげないとね」」

「……鈴木さん?」


 あれ?

 青葉くんと、さっきまでどうやって会話してたっけ?


 必死に思い出そうとしても、それは叶わない。

 なんなら、脳内には、「五月くん」と言って微笑む理花がいる。


 今日、たくさん青葉くんとお話出来て、手作りのケーキをいっぱいもらった。昨日も、ソフトキャンディ半分こしたし、そうそう。夕飯だって一緒に食べた。もう気軽に話すことはないと思ってた私にとって、その出来事は嬉しいもの。

 なのになぜか、青葉くんが「佐渡さん」と口にする度、嫌なことを口走りそうになる。青葉くんとの距離を遠くしたくなる。


 隠さないと。こんな心の狭い人だって、思われたくない。


「私、帰るね。お迎えあるし、えっと、買い物も行かないと」

「昨日、今日分も買わなかった? それに、迎えは今日透さんが……」

「大丈夫! 大丈夫だから、青葉くんは理花のところに」

「鈴木さん?」

「じゃあね、またあし「ちょっと、こっち来て」」

「……え?」


 カバンのファスナーを閉めて立ち上がった私は、青葉くんに右手を掴まれた。それは、簡単にはほどけない。


 もしかして、怒った?

 変な態度取っちゃったのは、自覚してるわ。余計なこと言わないで、帰れば良かった。


 私は、少し強引に引っ張ってくる青葉くんの後ろ姿を視界に入れながら、素直についていく。

 

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