甘い悲劇の幕引き



 ……という感じで、今に至るの。

 振り返ってみたけど、自分でもよくわからない展開だわ。


 私は、目の前に盛り盛りと積まれているお菓子に視線を戻す。


「あ、そうだ。コーヒーもあるけど、お砂糖ミルクは?」

「鈴木さんは、紅茶派だもんね。ダージリン淹れてきたよ」

「……ど、どっちもいただきます」


 本当はね、マリたちを誘ったのよ。でも、ふみかが「面白いから行かない」って。

 普通さ、「面白いから行く」って言うよね。どういう意味なんだろう?


 悶々しながら、私は青葉くんが淹れてくれた紅茶を口にする。


「あ、冷たくて美味しい」

「真夏だから、冷たい方が美味しいよ。コーヒーなんて熱すぎて飲めないよね」

「そんなことないよ。スイーツには熱々のコーヒーが一番なんだから」

「いつまで古臭い知識ひけらかしてるんですか?」

「昔の人の知恵を甘くみたらいけないよ」

「時代錯誤って言葉、ご存知です?」

「どうやら、先人の知恵に足元掬われるのは君の方らしいね」

「あー、もう! 喧嘩しない!!」


 小学生の喧嘩だって、もっとマシでしょう!?


 私がその場を諌めると、2人してしゅんとした表情になった。……なんなの、この人たち。

 よくわからないけど、とりあえずお腹空いたからクッキーをいただこう。


「いただきます」

「どうぞ」

「ゆっくり食べてね」

「……あ、美味しい」


 私が「美味しい」と行った瞬間、また2人の間に火花が散っている。全く、仲良くして欲しいよね。


 他には、何があるだろう。

 あ、エクレア食べようかな。それとも、サクサクしてそうなアップルパイ? チーズケーキも捨てがたいわ。


「……こうみると、梓ちゃんって小動物だよね」

「ですね。耳と尻尾が見えます」

「わかる。餌付けしたい」

「警戒心ゼロな辺りも、小動物って感じで」

「その辺りは、もう少しなんとかしてあげないと誘拐されそう」

「お菓子あげるからおいでって言われたら、絶対ついて行きますよね……」

「ダメだって……」

「2人してどうしたの?」


 黙々と目の前のお菓子を端から食べていると、青葉くんと牧原先輩が小声で何かを話している。もしかして、仲良くなったとか? それなら嬉しいんだけど。


 ああ、でも、違うっぽい。

 だって、私が持っているチーズケーキとアップルパイを凝視しながら変な顔してるし。


「え……。鈴木さん、それ同時に食べるの?」

「うん。美味しいよ」

「い、いろんな食べ方して良いじゃないか」

「シュークリームとショートケーキ一緒に食べるのも好き! パウンドケーキは、蜂蜜に浸して食べるんだ」

「え、浸して? 付けて、じゃなくて?」

「うん。みんなやらないの?」

「い、いろんな食べ方があって良いじゃないか」

「……?」


 変なの。

 2人は、こうやって食べないのかな? マリはすごく同意してくれたんだけど。


 そうそう。硬めのコンデンスミルクに三温糖入れて、それをずっと練って水飴作るのも好きなんだ。はー、考えただけで幸せ!


「……梓ちゃん、舌大丈夫?」

「ご飯ものは、めちゃくちゃ美味しいです」

「……食べたことあるの?」

「鈴木さんの家にお邪魔して、よく食べてますから」

「ッチ」

「あ、これ作ったの先輩ですよね」

「え?」


 このキャラメルケーキ、以前喫茶店で食べたショートケーキの味に似てる。

 そう思って牧原先輩の方を向くと、なんだかまた険悪なムードになってるじゃないの。何を話したら、そんな顔できるのよ……。


「わかるの?」

「わかりますよ。あっちのチーズケーキとアップルパイが、青葉くん。このキャラメルケーキとモンブラン、クッキーのチョコの方が先輩。……でしょう?」

「……合ってる」

「……すごい舌」

「2人とも、特徴があるからわかりやすいよ」


 牧原先輩の味は、洗練されてて狂いのない感じ。で、青葉くんのは、私の好みに合わせて作ってくれた優しい味がする。

 私は、どっちも好きだな。


「良かった」

「倒れないようにいっぱい食べなね」

「うん、ありがとう!」


 なんだ、体調を心配してくれてたんだね。私のために作ってくれたって思うと、すごく嬉しい。

 私がお礼を言うと2人は、言い争いが嘘のように優しい表情になってこっちを見てきた。

 

 良かった良かった。

 これで、私は安心してお菓子に専念できる!!


「引き分け」

「次は勝つ」

「望むところ」

「何言ってんのよ。一緒に食べましょう」


 こうして、「甘い悲劇」は幕を閉じた。……多分、ね。


 

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