「敵」からの差し入れ


「青葉ー、来たぞ」

「青葉くん、体調どう?」


 結局、青葉くんは6限も保健室で休んだ。理花が心配して教室来たらアレだと思った眞田くんが、「もう少し寝てろ」って本人に言ったんだって。


 一応知らせようと思って、理花には5限の合間にラインしておいたの。マリたちにも、そう言っちゃったし。

 案の定、理花は次の休み時間に教室へ来た。ちょうど移動教室だったからあまり話してないけど、眞田くんが「保健室で休んでるから、そっとしてやって」って言って納得したみたい。


「もう平気。さっき、保健の先生が来て、脈とかも測ってくれたけど、大丈夫だったよ」

「良かった。フラフラとかはしない?」

「うん」

「青葉、これ荷物。小林先生には、このまま帰ること言ってあっから。後で電話来るかも」

「わかった。2人ともありがとう」


 眞田くんから荷物を受け取った青葉くんは、セーター姿で背伸びをしている。さっきより顔色も良いし、ゆっくり休めたみたい。良かった。

 ……あ、そうだ。


「青葉くん、お昼食べてないでしょ」

「食べてないけど……」

「これ、さっき牧原先輩がくれたんだけど一緒に食べる?」


 ここに来る途中、牧原先輩からクッキーもらったんだ。

 調理実習で作ったんだって。


 カバンから出したクッキーを青葉くんの前に出すと、なんだか怪訝な顔してる。クッキー、好きじゃなかった?


「……え?」

「なんか、すげーフレンドリーな先輩だったぞ。青葉も知り合いか?」

「……え?」

「青葉くん?」

「……毒見していい?」


 どういうこと?


 青葉くんの言葉を聞いた眞田くんも、「あー」と声を発して変な顔してる。

 クッキー、美味しそうだけど……。なんで、そんな怪訝そうな表情してるんだろう?


 そんな2人を見ながら、私は袋の口を開けてクッキーを1枚取り出した。

 包装が可愛くて、クッキーの形も可愛いの。星やハート型を作るあたり、初めから女子にあげようってことが丸わかりよね。さすが、チャラいだけあるわ。


「す、鈴木さん。お腹すいたから、その」

「お、おお俺もそれ食う! くれ!」

「いいけど……。どうしたの、2人とも?」

「クッキーの匂い嗅いでたら、お腹すいたんだ」

「そうなんだ! 良かった。じゃあ、これは私が触っちゃったから、私が食べるね」

「俺がもらう!」

「あ、そっか。眞田くんもお昼食べてないもんね」


 にしても、がっつきすぎじゃない? 男の子ってこんなもん?

 要も、こんな風になるのかなあ。


 なんて疑問を抱いていると、いつの間にか手に持っていたクッキーも袋もなくなっているじゃないの。まあ、食欲あるのは良いことか。

 クッキーじゃなくて、主食になりそうなものあれば良かったな。


「ん、結構美味いぞ」

「本当だ。売り物みたい」

「え、食べたい!」

「この味なら、俺作れるから後であげる」

「……お前、結構料理スキル高いよな」


 そんなお腹すいてるの!?

 ……まあ、クッキーなら家でも作れるし、私がここでがっついても仕方ないわね。


「あの先輩はダメ」

「なんかあったのか?」

「あり過ぎて何から説明すれば良いかわかんない」

「……そんなにか」

「この前教室来て鈴木さんに抱きついてたから、とりあえず近づいちゃダメ」

「あいつか! あの告白がどーのって言ってたやつ!」

「どうしたの?」


 2人して、ヒソヒソ何話してるんだろう? 私も、仲間に入れて欲しいな。

 ……にしても、この2人仲良いなあ。ちょっと羨ましい。


「なんでもない! メレンゲ入ってるねって話してただけ!」

「そうそう、メレン……メレンゲってなんだ?」

「はあ。メレンゲって言うのは……」


 ふふ。

 眞田くんといるときの青葉くんって、なんだか楽しそう。


 私は、そんな青葉くんの横顔を見ながら、ベッドの布団や枕などを綺麗に畳んだ。

 保健の先生、どこ行っちゃったんだろう。

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