そんなにショックだったの?


「……さ、あーずさってば!」

「うぇっ!?」


 気づいたら、放課後になっていた。

 名前を呼ばれて辺りを見渡すと、マリとふみか、それに詩織や由利ちゃんが私の顔を覗いている。……私、何してたんだっけ?


「もー、昼休みからずっと上の空だよ」

「どうしたの?」

「あ、えっと」

「わかった! 5限の政治経済トチったんでしょ」

「マリじゃあるまいし、そんなことないでしょ」

「なにおう!!」

「あはは……」


 そうだ、学食で明日のテスト確認してたんだ。

 ……でも、いつの間に放課後になったんだろう。さっきまで昼休みだったのに。

 ていうか私、テストちゃんと解いてた?


「もしかして、ソラ先輩に何か言われたの?」

「へ!? なんで、牧原先輩?」

「昼休み呼ばれてたもんね。また告白とか?」

「…………え、呼ばれてた?」


 待って。え? 記憶にないんだけど。

 牧原先輩が、うちのクラスへ来たってこと!?


 ふみかの心配そうな声で懸命に思い出そうとするも、「青葉くん狙っても大丈夫だね」の言葉しか出てこない。……今、青葉くんと理花一緒に居るのかな。


「あーずさ!」

「あ、……ごめん。大丈夫だよ」


 いけないいけない。今は、テストに集中しないと。


 いや! 牧原先輩、何しに来たの!?


「ソラ先輩、たまに強引なところあるから。何かされたら、私に言ってね」

「ありがとう、ふみか。でも、今はテスト勉強!」

「だね。ソラ先輩は受験生なんだから、少しほっといても大丈夫だって」

「でも、そのスポーツ科の先輩カッコ良かったなあ」

「わかるー! やっぱ、筋肉は良いよね!」

「あの上腕二頭筋がさあ」

「詩織は、マニアックすぎ!」


 牧原先輩、確かにさすがスポーツ科って感じの体型してるよね。ただし、見た目に騙されちゃダメよ。女子のこと、ただの遊び相手だと思ってるんだから!


 ……でも、ふみかには優しいんだよね。なんでだろう?


「はいはい、勉強するわよー。特に、マリ! 明日の数学ヤバいでしょ?」

「ヤバくないよー」


 色々気になるけど、今はテストだよね!


 なんて言っておきながら、5、6限のテスト大丈夫かしら。本当、全く覚えてないの。政経と物理。

 ……家に帰ったら、問題用紙確認しよう。


「マジ? 今回はちゃんと勉強したんだ」

「マリ、偉い!」

「えへへー。もう捨てたから、ヤバくないんだー」

「……」

「……」

「……」

「……ですよね」


 マリってば、本当テストに弱いんだから!


 私たちは、マリの発言に同じことを思ったに違いないわ。だって、同じ表情してるし。


「ダメダメ! 赤点取ったら夏休みに補習だよ」

「いいのー。どうせ、夏休みなんかお姉ちゃんに買い物頼まれたりで休めないし」

「へー、家の手伝いしてるってこと? 偉いじゃん」

「してるよー。最近、スーパー行って夕飯買ったりね」

「…………」


 え、そうなの?

 どこのスーパーかな。会ったことないから、私が行ってるところではなさそう。どうか、会いませんように。


 なんて念を送っていると、後ろから私を呼ぶ声が聞こえて来た。


「あれ、梓じゃん」

「……橋下くん?」


 後ろを振り向くと、そこには橋下くんともう1人……校章を見る限り同学年の芸術科の子が、こちらを見ていた。


「え、梓……。知り合い?」

「嘘……。いつ知り合ったの」

「……」


 橋下くんたちだけじゃないわね。

 ふみか以外も、呆気に取られて私を見てる。なんなら、周りで勉強している生徒たちも。


 迂闊だったわ。

 ……なんて説明すればいいの?



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