10

色々アレだよね!?

嫉妬


「…………」


 放課後、私は昇降口に置かれたベンチに座ってボーッと空を見上げていた。


 青葉くん、生徒会に呼ばれたんだって。昨年書類整理してたかそれ関連かなって、ラインが来てたわ。

 20分経っても終わらなかったら、先に行かなきゃ。お迎えの関係で、それ以上待つのは難しいから。


「……あれ、アズサちゃんだ」

「牧原先輩……」


 腕時計を見ていると、聞いたことのある声がした。顔を上げると、案の定、牧原先輩がこちらに向かって手を振っている。

 その隣には、これまた背の高い男子が。


「久しぶりー。って言っても、そんな経ってないか」

「ソラ、知り合いか?」

「うん。ほら、普通科のアズサちゃん」

「ああ、お前が」


 ちょっと! 初対面で「お前」はないでしょう!!


 そう文句を言おうとしたけど、止めた。

 牧原先輩にタメ口ってことは、この人も先輩だろうし。……ちょっと見た目が怖いし。


「ふーん。可愛いね」

「でしょう? 僕の推しの子」

「……茶化したいだけなら、他へどうぞ」

「そんなそんな〜。僕、アズサちゃんが来てくれるの待ってたんだけどなあ。一向に来てくれないんだもん」

「特に、用事はないですから」

「上着と校章、僕が持ってるんだけど」

「あ……」


 そうよ! 上着!!


 私は、今の今まで自分の上着と校章が手元にないことを忘れていた。

 頭の隅にもなかったわ。上着の「う」の字も。


「ないと大変じゃない? 登校時は、上着必須でしょ?」

「……借りてるから、大丈夫です」

「えー、誰に?」

「…………」


 青葉くんにって言おうとしたけど、別に答える義務はないよね。

 この先輩、あまり一緒に居たくないタイプだし。早く帰ってほしいなあ。


「んだ、お前? 後輩イジメは良くねぇぞ」

「別に、虐めてないよ。アズサちゃんの上着を僕が拾ったってだけ。ね?」


 ええ、そうね!

 拾っただけね!!


 嘘は付いてないけど、色々抜けてるわ。

 牧原先輩、私にあの時のことを思い出させようとしてるんだ。思惑にはまらないようにしなきゃ。


 そう思ったのに、私の顔はどんどん熱くなっていく。処女かどうか聞かれたことを、思い出して。


 あの後、橋下くんが助けてくれたのよね。それから彼と仲良くなって、青葉くんの過去を聞いて……。


「……アズサちゃん?」


 青葉くん、どれくらい傷ついたんだろう。きっと、私が想像してるよりずっとずっと辛かったよね。


 私、青葉くんに気持ち伝えようって思ってた時期もあったの。

 けど、青葉くんは「告白」されること自体、トラウマだと思う。それをわかっているから、私にはできないって納得したんだ。

 ……納得したのよ。


「アズサちゃん、どうし「お待たせ、鈴木さん」」

「……青葉くん!」


 良かった、間に合ったんだ。


 私はベンチから立ち上がり、帰ってきた青葉くんの方へと駆け寄った。

 ……でも、なんか機嫌悪い? 青葉くん、私の後ろを睨んでる気がする。


「……あ」


 そうだ、牧原先輩たちと喋ってたんだ!

 すっかり忘れてたわ……。


「何か用ですか」

「アズサちゃんにね」

「上着と校章、早く返してあげてください」

「返したいんだけど、今は持ってないんだ」

「……そうですか。鈴木さん、行こうか」

「う、うん」


 そう言って、青葉くんは私の荷物をベンチ下から拾い上げた。


 やっぱり怒ってる?


 私が、早く先輩のところに行って上着返してもらえばよかったかな。でも、橋下くんが行くなって。

 ううん。人のせいにしちゃダメよ。ちゃんと、自分で取りに行かないと。


 そんなことを考えていると、青葉くんが私の手を握ってきた。

 今、言わなきゃ。


「ま、牧原先輩!」

「……なあに?」

「明日、取りに行くので上着返してください」

「じゃあ、一緒にお昼食べよっか。その時返すよ」

「……えっと」


 ……あれ? 青葉くんの手に力が入ってる。ちょっとだけ、痛い。

 どうしたんだろう。


「鈴木さん、時間」

「あ、迎え! 先輩、明日お願いします!」

「あ、ちょっと!」


 そっか、迎えの時間あるから急いでくれてたんだ。


 安堵した私は、2人の先輩に向かって頭を下げてから走り出す。


「青葉くん、ありがとうね。忘れるところだった」

「……」

「……青葉くん?」

「え? あ、うん」

「……?」


 やっぱり、青葉くん機嫌悪い?

 私、何かしたかな。先輩と話してて、上着返してって言って。


 ……もしかして、上着借りすぎ?

 もしかしてもしかして、借りた初日にそれ抱いて寝たのバレた!? 


 青葉くんの匂い、すごく落ち着くから寝落ちしちゃったのよね。

 でも、安心して。ヨダレは垂らしてないわ!


 ……じゃないわよ! 抱いて寝たなんて、バレてたらどうしよう?

 

 いやいや、バレてるわけないじゃない。青葉くんはエスパーじゃないって。落ち着いて、私!

 落ち着いて、原因を考え……。


 あ、馬鹿! 荷物持たせっぱなしじゃないの!


「ご、ごめん! カバン!」

「大丈夫、持つよ。急ごう」

「う、うん……」


 あれ、いつもの青葉くんだ。

 いつの間にか、手の力も抜けてるわ。


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