隠されたもの、隠そうとしたもの
髪を結えた青葉は、今まで隠れていた顔を私たちの前に曝け出した。
鼻筋の通った顔立ち、整った眉にバランスの良い瞳。男子にしては長めの睫毛も、今までに見たどんな人よりも「綺麗」という言葉がよく当てはまる。
いつも良く見ていたはずの顔下半分も、なぜ気付かなかったの?って疑問に思うくらい整っていた。……見てるだけで、顔が熱くなるくらいに。
「……嘘」
私は、この顔を知っている。見た瞬間、そう思った。けど、何故そう思ったのかまでは頭が回らない。
今の衝撃で、涙も止まった。
「……これで良いですか」
「なんだ、隠すような顔じゃないじゃん」
ソラ先輩もびっくりしてる。
そりゃあ、これだけ劇的に変化されたら驚くよね。
でも、梓は驚いてない。知ってたのかな?
どっちかというと、不安そうな顔して青葉を見ていた。
それに気づいた青葉は、決して私たちにはしない優しい笑みを梓に向けて、頭を撫でている。ほんと、2人はどんな関係なんだろう。
「俺のことは良いんで、続きどうぞ」
梓から視線を外した青葉は、静かな声でそう言ってきた。
ソラ先輩と一緒に私を見てるってことは、私が話す番なんだよね。
私は、さっき話そうと思ったことを頭に思い浮かべて口を開く。
こんな格好良い人の前で話すの、なんだか恥ずかしい。……好きなことしてたはずなのに恥ずかしいって、変な感情。
私、これを機に変われるかな。
「私、1年の秋から……」
***
「…………」
青葉くん、どうしたの?
私は、目の前で髪を結い始めた青葉くんに戸惑った。いえ、その前から戸惑っているわ。
イヤホンから聴こえてくるのは、要とか瑞季がよく観てるアニメの主題歌。……青葉くんもこういうの好きなのかな。私も、双子に付き合って一緒に観てるから話できるよ。
いやいや、今はそれどころじゃないっての!
「っ、……、…………」
「……、……、…………。……」
「……ー」
聞き耳を立てても、みんなの声は聞こえない。
口の形で、何を話しているのか見ようとしたけどダメね。
ほら、よく刑事モノのドラマとかであるじゃないの。口の動きで何を話してるか見るやつ。私には無理だわ。
「……」
イヤホン外したいけど、青葉くんに怒られるのは嫌だな。声を出すのも我慢しないと。
何か考えがあって、こうやってるんだろうし。それを私がぶち壊したら台無しになるよね。
私は、その意思表示をするべく、そして、急に顔を出した青葉くんを心配して彼のセーターを引っ張る。すると、いつも家で見せるような笑みと一緒に腕が伸びてきて、頭を撫でられた。
そのまま、その手は私の左手を握ってくる。
……大丈夫って言いたいの?
ねえ、なにが起きてるの?
「…………」
本当は、今すぐ声を出したい。今すぐイヤホンを取って、青葉くんの声を聞きたい。
なんで、私だけ話を聞いちゃいけないんだろう。
ふみか、苦しそうな顔して何を話してるの?
「……、……」
「…………、……」
そんな疑問を抱いて10分は経ったかな。いや、もっとかも。
青葉くんが、私の前に来てやっとイヤホンを外してくれた。
「……わかってる。誰よりも、わかっています」
「…………?」
でも、イヤホンを取る前、一瞬だけ青葉くんの顔が曇ったの。それと同時に「わかってる」、と。
その声は、目の前に居るのになんだか遠くから聞こえてくる。
「ならいいけど。……梓ちゃん、今度ゆっくりお茶でもしようね」
「…………嫌」
「あはは」
そう言った牧原先輩は、そのままふみかの頭を撫でた後中庭を出て行ってしまった。……私の言葉に、笑いながら。
「あのっ、青葉くん……えっと」
私が口を開こうとしたその時。
同時に、昼休み終わりのチャイムが中庭に響き渡った。
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