それは「好き」じゃない
賑やかな幼馴染ファミリー
「…………」
「…………ごめんなさいね」
ケーキ屋を出ると、青葉くん、なんだか未知の生命体に遭遇しました的な疲れ切った表情になっていた。それに、首が斜めになってる。
……すごく気持ちがわかるわ。
ひかるは、保育園の年中さんからの幼馴染。小中も一緒だったけど、高校は別なの。確か、隣町の並坂高校に通ってた気がする。
親同士も仲が良くて、よく一緒に遊んでたんだ。
「あ、うん。鈴木さんって、幼馴染いたんだね」
「……すごく煩いけど、一応」
「なんか、その。すごく……個性的な人たちだね」
ああ、言葉選んでくれてる。青葉くん、優しいな。
「ねえちゃん!ひかると遊ぶ約束した!」
「ひかるくん、でしょ!」
「ひかるくん!」
「ひかるくん!」
青葉くんの疲れ顔と正反対な双子は、どうやらいつの間にかひかると遊ぶ約束をしたらしい。
彼も、子どもに好かれるのよね。こっちは、精神年齢が低いからまあ納得だわ。
***
「………母さん!あずが男連れてきた!!あずが!!!」
「はあ!?」
開口一番がそれってどうなの!?
青葉くんがいなかったら、きっと持っているスーパーの袋ぶん回して頭あたりに打ち付けてたわね。ひかる、青葉くんに感謝するのよ。
「なあに、ひかる。梓ちゃんだって、男の1人や2人や3……人…………!?」
すると、奥からひかるのお母さんが出てきた。
作業中だったのか、手には泡立て器が握られている。
というか、1人はまあ良しとして、2.3人は多すぎるわ。私のこと、なんだと思ってるの?
「……こ、こんにちは、おばさん」
「……あらやだ、イケメン」
「おばさん……?」
おばさんは、青葉くんを見て固まってしまった。
青葉くんの格好良さって、年齢問わずなのね。……にしても、驚きすぎじゃない?
「……ちょっとあなた!あーなーた!梓ちゃんが超絶イケメン彼氏連れてきたわよ!!」
「おばさん!?」
さっきと同じパターン!?
本当、親子ね!
おばさんが、開け放たれた奥の扉に向かって叫ぶと、今度はシェフの格好をした男性……ひかるのお父さんが出てきた。なぜか、手にはパン切り包丁が握られている。
「あん?どこの馬の骨かわからねぇやつに、娘をやるわ、け……」
「……えっと、こんにちは」
「……」
「……」
おばさんだけじゃなくて、おじさんまで青葉くんの顔を見て固まっちゃった。3人の視線を集めた青葉くんは、困惑しながら挨拶をしてる。……そりゃあ、包丁片手に凄まれたらね。
けど、きっと青葉くんの言葉は桜田ファミリーに届いてないわ。だって、上の空に近い表情で彼のことを凝視してるんですもの。
「……娘をどうぞよろしくお願いします」
「だから、なんでそんな話になるのよ!!」
本当、話を先に進めるのが好きな人たち!
いえ、人の話を聞かないというかなんというか。……娘のように可愛がってくれるのは、嬉しいけどね。ショーウィンドウにかじりつきっぱなしの双子のことも、とても可愛がってくれるの。
おじさん、いまだに包丁を持ちながら青葉くんに向かって頭を下げている。とりあえず、包丁やら泡立て器やらをどこかに置いて欲しいわね。
「梓ちゃん、こんなクーベルチュールのような高級食材を逃したらダメだぞ」
「そうよ!うちのひかるみたいなその辺で買える下級食材より、全然お得よ!」
「そうだぞ、あず!僕みたいな、下級……いや、母さんそれはひどくね?」
「……」
「……えっと」
うん、そろそろ話を進めないとこれじゃあ、いつまで経っても帰れないわね。
そう思った私は、早速ケーキの注文を始める。
「とりあえず、チョコケーキとフルーツタルト1つずつお願いします。あと、このホールケーキ」
「かしこまりました。……ひかる!一番見た目が良いのを選びなさい!」
「待て!今から新しいのを作ってくる!」
「い、いや。そこまでは」
「…………」
ああ。青葉くんがついていけてないわ。なんだか、遠い目をしてる。
悪い人たちではないのよ。ただ、ちょっと……えっと、賑やかなだけで。
冷蔵品買ってるから、早く帰りたいのよね。
私は、ひかるが計算してくれたお金を急いで財布から取り出そうとした。すると、
「ここは、俺が払うよ」
「え、でも」
「夕飯のお礼に」
「……ありがとう」
青葉くんがサッとお金を出してくれた。これは、夕飯ちゃんと作らないといけないわね。
……なんだか、おじさんとおばさんの視線が熱いわ。またよからぬこと考えてるっぽい。
「結婚式は呼んでくれよ、梓ちゃん」
「お祝い持って駆けつけるわ」
「青葉くんとはそんなんじゃありません!」
ケーキの箱を受け取った私たちは、そんな文句を言いつつお店を出た。……なんだか、とても疲れたわ。
でも、青葉くんのカロリーのためよ!!
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