名前呼び、ダメか?




「じゃあ、あの拾ってたやつが梓のか?」

「そうかも」


 あーあ、スポ専のやつ結構計算高いな。

 あれだろ、上着返してくださいって来るの待ってるってことだろ。

 卑怯じゃんか、そんなの。


 でも、梓の性格からして、普通に「返して」とか言いに行きそうだな。


「どっちにしろ、バッジも返してもらってないから後で先輩のところ行かなきゃ」

「いや、行くなよ。それが目的で取ってったんだろ」


 ほらみろ。

 ちょっとだけど、こいつの性格わかってきたわ。

 本当、人を疑わないよな。五月と良い勝負かも。


「……でも、上着ないと不便だわ」

「オレの貸すか?どうせしばらく仕事で行けねえし」

「うーん。嬉しいけど、バッジが違う」

「あ、そうか」


 科が違うと不便だなあ。

 バッジって、無くすと色々手続き大変なんだよ。


 一層のこと、「撮影に使う」とか言って先生からもらってくるか?いや、それならあの茶髪ヤローのところにオレが行って返してもらった方が……あの性格だとぜってぇ返してくれねぇな。


「じゃあ、俺の上着とバッジ貸す。で、俺が奏の借りる」

「え、でもバッジは?」

「俺は特に生活指導の先生に目をつけられてないから。気づかれないよ」

「……」


 そりゃあ、そんな地味な格好してればな。

 五月の言うことを聞いた梓は、頬を膨らませてしかめっ面をしている。……こいつ、やっぱメイクとか髪色とかで目をつけられてんだな。ドンマイ。


 てか、普通にオレの上着と五月のバッジを梓に貸せば良くね?

 なんでわざわざ複雑なことすんだ、こいつ?


「ちょっと大きいけど、それは我慢してね」

「……ありがと。ちゃんと返すから」


 まあ、梓嬉しそうだし良いか。

 やっぱ、五月のこと好きなんじゃねぇの?


 梓が1人で座れるようになったから、オレは壁際に移動した。背中に壁をつけて、2人のやりとりを静かに聞く。

 てか、ここ本当に誰も通らねえな。今度、ここで五月と飯食うか。


「気にしないで良いよ。……それより、メイク直させて欲しいんだけどいいかな」

「……いいの?」

「五月、色々メイク詳しいから教えてもらえば?」

「……おすすめのやつとか発色良いチークとかおしゃべりしたい」

「いいね。後で話そうか」

「うん!」

「梓動けるなら、空き教室行かね?この奥に、デッサン用の部屋があんだ」

「動ける」


 あ、また五月に睨まれた。

 もしかして、こいつ……。


「鈴木さん、俺につかまって。無理そうなら寄りかかって良いから」

「大丈夫、歩ける」

「捻挫したら、大変だよ」

「……少しだけ手を貸して」

「うん。いくらでも」


 ……オレ、もしかしなくても邪魔か?


 そのくらい、なんか2人の世界に入ってる気がする。でも、高久さんから、車回してもらえるまで20分くらいかかるって連絡来てるしな。悪いけど、もう少し見物させてもらうよ。ちょっと面白いし。


「五月、梓。こっち」


 ほら、やっぱり。

 五月、オレが梓の名前呼んでるから睨んでたんだ。

 ……本当、五月にとって梓ってなんなんだ?


 なんて思いながら、オレは2人をデッサン室へと案内する。


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