息ぴったりだな、おい!



 五月が戻って来たんだけど、なぜかしばらく沈黙が続いた。

 どっちの顔も真っ赤になってんの。何か喋ってくれないと、見てるこっちが恥ずかしいんだけど。


「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

「……なんだよ、この空気! お見合いかよ!」

「「うるさい!」」

「……シンクロすげぇ」


 なんてオレが笑ってると、2人揃って同じ言葉をはいてくる。息がぴったりなのか、単にオレに対する扱いが同じなのか……。

 後者だったら、複雑すぎね?


「えっと、鈴木さん。ごめん、隠してたつもりはなくて」

「あ、いいえ。別に……。びっくりしただけで」

「…………」

「…………」


 だから、どこのお見合いだよ!

 こっちは立会人じゃねえぞ!!


 オレは、ため息をつきながらその光景を眺めていた。

 いや、なんか見てても発展しそうになくて退屈したから、スマホ取り出してとりあえず正樹に連絡入れたわ。すぐに、「良かった」と返信が来た。てか、履歴見ると結構連絡くれてたっぽい。これは、後でスタバ何回か奢らないとな……。

 そうそう、高久さんにもメール入れとこ。電話したら怒鳴られそう。


「鈴木さん」

「青葉くん」


 すると、隣で2人同時に話し始めた。

 ……本当、息ぴったりだな。


「あ、ごめん」

「いえ……」

「どうしたの?」

「……う、上着ありがとうって」

「ああ、着といて。それに、ちゃんと前も閉めないとダメだよ」


 なんて言いながら、五月は梓のワイシャツの前ボタンを閉めている。……こういう細かいところ気づくの、見習いたいわ。ごめんな、梓。


「……ありがとう」

「そういえば、鈴木さんの上着どうしたの?」

「……あれ、どうしたかな」

「オレが来た時は、着てなかったぞ」

「あ、先輩と芸術棟入るときに罰則気にしてバッジ取られて……。その時は着てたけど」


 ああ、そうか。

 ここに普通科のやつが入ってきたら、色々罰則あったな。オレのせいで作られたらしい。そっちも、ごめんよ。


「茶髪のヤローが消えるときに上着拾ってったけど、あれはあいつのだろ?」

「え、先輩上着着てなかったと思う」

「マジ?じゃあ、あの拾ってたやつが梓のか?」

「かも……」

「……」


 ……ん?今、五月に睨まれた気がする。

 気のせいか?


 まあ、とりあえず会話が進んで良かったよ。

 あのままお見合い状態だったら、どうしようかと思ったわ。


 オレは、その上着をどうやって取り返すか考えつつも、さっきよりもだいぶ顔色のよくなった親友に気づき安堵した。



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