また、あなたに近づける?

 


「…………!?」


 青葉くんは、ゆっくりと私の身体を包み込むように抱きしめてくれた。

 香水つけてるのかな、すごく落ち着く匂いがする。


「え、あ、あの……」


 驚いて顔をあげると、青葉くんの右肩が視界の下に見えた。刺青が、ちょうど私の肩に当たっている。

 よく見ると、すごく綺麗な模様だな。線が真っ直ぐ伸びてて、波?炎?デザインはなんだろう。


 ……あれ、近くで見ると刺青のところにいくつか大きな傷跡がある?前に怪我したのかな。もしかして、それを隠したくて刺青してるの?

 なら、聞かない方がいいよね。近付かないと気付かないな、これは。


 あ、それくらい私、青葉くんの近くにいるんだ。


「あ、青葉くん。近い……」

「泣き止んだら離しますよ」

「……もう大丈夫、です。ごめんなさい」

「こちらこそ、泣かせちゃってごめんなさい」


 抱きしめられたことと、その大きな傷跡のことで、いつの間にか涙は止まっていた。

 声をかけると、すぐに身体を離してくれる。そして、彼は優しく頭を撫でてくれた。……完全に子どもだと思われているわ。


「あ、あの」

「ねえちゃん、終わった!」

「お腹すいた!あれ?おねえちゃんたち居ない?」


 口を開こうとした時、リビングから要たちの声が聞こえてくる。

 私は、両手の人差し指で涙をサッと拭うと素早く立ち上がり、


「いるよ!もう完成したから、持っていく」


 と、いつもの声を心がけながら発言をした。


「わーい!」

「食べる!4枚切り〜」

「ぼくは8枚切り!」

「あ、パン焼いてない!」

「俺、やりますよ」


 うん、気付かれてない。

 ……そして、パン焼くの忘れた。ご飯炊くのも。はあ……、嫌になる。


「あ、ありがとう……。食パンだけでいいですか?」

「はい!いただきます!」


 続けて、青葉くんも立ち上がった。

 そのまま彼は、カウンターに置かれたパンを持ち、トースターの方へと歩いて行ってしまう。


「何枚食べるかな?」

「ぼく、3枚!」

「わたしは1枚」

「わかった、焼くね。鈴木さんはどうしますか?」

「あ、えっと……」


 今更ながら恥ずかしくなった私は、しどろもどろになりながら青葉くんの視線を受け止める。

 勝手に泣いたのも、急に抱きしめられたのも、思考が追いつかない。……その腕の大きな傷跡のことも。


「8枚切り2枚……」

「わかりました。俺は、4枚切り1枚いただきますね」

「どうぞ。……ちょっと、焼くのお願いします。すぐ戻るから」

「はい、先に焼いていますよ」

「お手伝いする!」

「ぼくも!」


 私は、メイク直しをするため洗面台へと向かった。……また変なところ見られちゃったな。


 今日イチで、顔が熱い。


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