お弁当を作る理由


 幸い、電子レンジは4台とも空いていた。

 やっぱり、お弁当派の人って少ないよね。みんな購買か学食利用してるし。


「ねえ、なんで梓ちゃんはお弁当なの?」

「えー、欲しいもの買いたいから。少しでも節約したいの」

「あ、一緒だ。私も、文庫本の新刊欲しくて」

「由利ちゃんらしい。何の本の新刊?」

「えっとね、グリム童話を主体とした話で……」


 危ない危ない。

 私は、電子レンジに自分のお弁当を入れながらとっさに話題を変えた。

 だって、家計のやりくりしてるなんて知られたくないもの。


 由利ちゃんは私の焦りに気づかず、嬉しそうに新刊の内容を話し始めた。


 私も、ゆっくり本読みたいなあ。

 最近読んだのは、『100万回生きたねこ』だったっけ。2人の読書感想文手伝うのに、一緒に読んだの。

 昔は、『おむすびころりん』とか『ねないこだれだ』なんて朗読してたな。今は、もっぱらあの子たちの音読を聞いて「音読カード」ってやつに印鑑を押す立ち場になっちゃった。


「面白そう! 何冊まで出てるの?」

「シリーズにすると、10冊以上出てるよ。でも、1〜2冊で完結するから途中からでも読めるの」

「へえ、全部持ってるの?」

「うん! バイトとお小遣いで買ったの」

「すごい! 由利ちゃんは頑張ってるね」

「梓ちゃんも読む? 新刊じゃなければいつでも貸せるよ」

「本当? 読んでみたい!」


 そんな話をしていると、電子レンジが「チン」と音を立てて止まった。

 600Wしかできない電子レンジだから、時間がかかるのよね。今は1000Wとかあるでしょうに、もう少し新しいやつが欲しいなあ。


「今度持ってくるね。……で、梓ちゃんの欲しいもの、って……」

「……?」


 由利ちゃんも温め終わったみたいで、私に話題を振ってくる。でも、その言葉が不自然に止まってしまった。

 私は、由利ちゃんの見ている方へと視線を向ける。すると、


「……あ」


 そこには、髪をワックスでまとめて縛り、ピアス穴を披露しているあの人が。

 私の家に来たあの姿の青葉くんが、誰かと楽しそうにおしゃべりをしながら学食に入ってきたところだった。


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