第9話【当日 後編】炎と水
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
僕は周囲を取り囲む水の量に圧倒されつつも、なんとかアレで対抗しようと準備を始めたのです。でも、なんなのですかあの魔力量は!?そんな魔力一切感じなかったですよ?僕の今使える魔力量とほぼ同量、、、いや、あっちの方が少し多いくらいの量なのですよ?そんなの隠しておけるはず、、、まさか最初からちょっとずつ水を外郭に貯めていたのでしょうか?だとするとこれまでの『攻撃』に魔力はほとんど使われていない、、、。
冷や汗が流れます。あの魔法の効率の良さを考えると自分の予想の倍、いや3倍くらいの量の水が襲ってくると考えざるを得ません。でも、負けるわけにはいきません。自分の技の発動よりも向こうの技の発動のほうが絶対に速く、発動してから渦に巻き込まれるまで時間がない以上は差し込めるチャンスは一瞬でしょう。
でもやるしかありません。
『大丈夫です。ちゃ〜んと助けてあげますから。』
来た!このタイミングで口上を述べてくれるならギリギリ間に合うのです。
『なので安心して、、、死になさい。』
まだ死ねないのですよ。
『メイルシュトローム』
その名前には聞き覚えがありました。確か、その名前は北欧の方の大渦の名前ですね。じゃあ、あなたもあの世界出身なのですか?あの世界基準じゃあ100年は長いのですよ。
「フゥ様ーーー!!」
フィーラの声援が聞こえました。大丈夫です。今ここで終わらせてあげましょう。準備はできたのです。
ーーーーーーーー
フゥ様の渦がワサ様に襲い掛かる。
「出たー!!最後にして最強のの必殺技『メイルシュトローム』!相手は死ぬ!殺しちゃダメだけど!!!」
と横でオッツェンさんが叫ぶ。
フゥ様は魔力で何かをしている様子はあるものの何か対抗している様子は見えない。
『今更何をしても無駄だ。』『もう手遅れだ。』と周りの奴らが言っているのが聞こえた。
何を言っているのか。いつもは偉大な巫女だなんだ言っている割に見限るのか。私は違う。最後まで、いや最後が終わってからも信じ続ける。この子に尽くそうと決めたのだから。
「フゥ様ーーー!!!」
あなたを信頼しているから。あなたなら勝てると信じているから。私は叫ぶ。その瞬間、フゥ様が笑った。
『スーパーノヴァ』
意味はわからない。ただ、『メイルシュトローム』に対抗し、克つものであると確信した。
そして、世界は光に包まれた。
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その名はスーパーノヴァ。元素合成をし尽くし、鉄すらもヘリウムに変換された星の最期の咆哮。ガンマ線バーストこそないもののその光と熱はまさにその現象の再現。
その膨大な熱量は襲い掛かる水を打ち消し、蒸発させていく。が、膨大な水はその熱量に打ち勝つように、勢いが衰えないかのようになお襲い掛かる。無限に続くかのような熱量と重量のぶつかり合いではあるが、これらは彼女たちの魔力によって生じた現象である。
つまり、魔力が尽きればそこで終わり。
そして、今魔力が尽きる。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
光に包まれていたのはおそらく5分程度だったように思える。しかし、その5分はこれまでの人生の中で最も長い5分だったように思える。光が消えたとき、この『戦争』の決着がつくのだから。
光が消えた瞬間、そこにはフゥ様とワサ様が立っていた。横にいたはずのオッツェンさんは何も言わないと思っていたら、、、気絶してますね。テンション高すぎていくとこまで行っちゃった感じなのだろうか。
目を舞台に戻すと、お二人の姿はすでにボロボロであった。炎でボロボロになった服は水で流され、あられもない姿を現している。肉体にダメージは無さそうなのが唯一の救いだろうか。
炎と水の衝突により大量に生じた水蒸気によってだろうか、雨が降ってきた。そしてその瞬間、両者は同時に倒れ伏す。
誰も言葉を発し得ない。そこにいる誰もが倒れ伏す巫女を見ていた。
『どちらかが立って勝利宣言をするのではないか?』『両方とも立ってまだ戦争が続くのではないか?』誰もがそう思っていたに違いない。
だが、巫女は立たない。いや、立てない。
それに気づいた瞬間私は走った。気絶していたはずのオッツェンさんも同じタイミングで走り出した。主君の異常事態にはちゃんと反応するらしい。
「フゥ様!」
倒れているフゥ様を抱き抱える。意識はないようだ。もしものことを考えてすぐに脈を確認する。
トクン トクン。
よかった。脈はある。安心した瞬間、フゥ様が目を覚ました。
「ふぃー、、ら、?」
「フゥ様!目が覚めたのですね!痛いところとか息が苦しいとか!」
「ぼくは、、かてたのですか?」
フゥ様がか細い声で言う。そこにはいつもの元気はなく、最後の気力を振り絞っている声であった。
「同時に倒れました。恐らく史上初の引き分けになるかと。」
「そうですか。かてなかったのですね。フィーラの期待にそえなくて、申し訳ないのですよ。」
「何をおっしゃっているんですか。期待なんてしてませんよ。」
「このタイミングで中々ひどいことを言いますね。フィーラ。頼みがあります。」
「なんですか?」
「この後のことはよろしくお願いします。」
「そんな、、、当たり前じゃないですか。私はあなたの次に巫女に向いているんですよ?」
「そんな泣きながら言われても心配なのですよ。まあ、でもフィーラなら大丈夫でしょう。あとはよろし、」
と言ってフゥ様の体から力が抜けます。
「フゥ様!?フゥ様!?起きてください!?救護班!!!救護班はまだか!?」
そう叫ぶと救護班が駆け寄ってくるのが見えた。
「フゥ様を救護室に運びます!フィーラ殿はいかがされますか?」
「私も同行します。私がこのまま持ち上げて運びますので道案内よろしくお願いします。」
そう言いながらフゥ様を抱える。軽い。こんな子にこんな大事を任せるこの国はおかしい。でも、今はそんなことを考える場合じゃない。
「わかりました。こちらです。」
救護班の案内に従って私は走り始めようとした時、ふと水の巫女の方を見るとあちらもオッツェンさんが巫女を抱えて走り出していた。向こうも同じ様子らしい。
「フィーラ殿?」
救護班に声をかけられる。ついてこないのを心配したのだろうか。向こうも気になるが、とりあえず今はフゥ様を運ぶことが大事だ。
「今参ります!!」
そう言って私は走り出す。
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