第4話【演舞前日】ご挨拶と謎の視線

炎の国と水の国の国境の街「ステアム=ヴァーポル」。近隣に存在する火山による多量の鉱物資源と大河による肥沃な土地により、古より多くの戦争の舞台となってきた歴史ある土地である。

血を流す戦争から『演舞戦争』に変わった現在でもその舞台は変わらず、都市中央に位置する『大舞台』は街のシンボルとして存在している。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「なんだかんだ揺れも慣れればどうってことなかったのですよ。」

「その割に揺れるたびに『はうっ』とか『はううぅ!』とか『敵襲なのです!?』とかおっしゃってませんでした?」

「うるさいのですよ!まあまあ寝れたからいいじゃないですか!?」

「そうですか。ところであれが明日の演舞舞台となる『大舞台』です。結構広いんですね。」

「なんか話ズラそうとしてません?まあ、『大舞台』は僕も見るのは初めてですからね。大きさに今更ながらびっくりです。」

そう、大きいとは聞いていましたし、図面も見たことはありましたけどいざ実物を見ると中々の大きさなのです。

「神殿の練習場もずいぶん大きいですけどそれの2倍くらいありません?」

「た、確かにそ、それくらいはありそうなのです。」

「なんか体震えてません?まだ始まってもいないのに緊張するの早すぎません?」

「よ、余計なお世話なのですよ!心配しなくていいのです!」

別に緊張で声が震えるとか、死にそうなくらい心臓がばくばくしてるとかそういうのじゃないのですよ!ただちょっと、、、そう!武者震い!水の国の巫女という強敵と相見えるから興奮で震えているのですよ!

「まあ、フゥ様が大丈夫なら私は信じてますけど、、、何かあったらすぐにおっしゃってくださいね。私はフゥ様の100%の味方なのですから。」

「な、何かあった時は頼るのですよ。フィーラのことは僕も信用してますから。で、今から何の予定があるのです?」

「このやりとり4回目くらいですけどやっぱり緊張のしすぎで忘れてません?この後はホテルに荷物を置いてから夕方の水の国との挨拶という名の宣戦布告を行う行事に出席します。その後はホテルで壮行会ですね。」

「うへぇ、多くないですか?壮行会とか深夜までかかったりします?寝たいのですけど?」

「いえ、フゥ様は最初に何か喋ってくだされば後はお部屋に帰って寝てもいいですよ。会自体は深夜までやるらしいですけど。」

「じゃあお言葉に甘えるのです。」

道が悪くて良く眠れなかったので流石に前日はしっかり寝ないと体力が持たないのですよ。

「とりあえず間も無くホテルですから荷物だけ置いて、私の部屋に来てください。宣戦布告用のドレスに着替えないといけないので。」

「言い方が物騒なのです!?」


ーーーーーーーーーーーー


「はい、息を大きく吸って〜、吐いて〜止めてください!」

「うぐっ!コルセットキツくないですか?痛くはないですけど。」

「そういうドレスなので勘弁してください。」

今着ているのは宣戦布告、、、ようは「ご挨拶」の時のドレスです。揺らめく炎をイメージしたらしい赤やオレンジ色のフリルが配われた青色を基調としたものですね。青が入っているのは水の国に対する歩み寄り、、、と言う名の挑発だとかなんとか。

「後は髪の毛のセットですね。椅子に座って待っててください。寝ると化粧がどうなるかわからないので寝ないでくださいね。」

そう言ってフィーラはヘアセット用の道具を取りに少し僕から離れました。音からして鞄の中からいろいろ出しているみたいです。つまり、フィーラは僕のことを見ていないのですが、、、何処かから視線を感じます。誰かこの部屋にいる、、、?気のせいなのですか、、、?いた時のためにちょっとだけ魔法で威嚇してみましょうか。いなかったらちょっとホテルの壁が焦げるだけでしょう。

「レーザーファイア。」

小声でつぶやきます。これはレーザーのような炎を直線的に高速で打ち出す魔法です。出力は相当絞ったので壁にあたってもちょっと焦げるだけでしょう。適当に放ったその魔法は壁に、、、当たることなくどこか空中で消えました。そして、消えた瞬間に聞こえる「ギャ!」という図太い声。

「フィーラ!誰かこの部屋にいるのです!すぐに誰か呼んでき、、、」

「急に魔法使わないでください!当たってちょっと熱かったんですから!」

「いや、、その、、視線を感じたもので、、、。」

あれ?フィーラには当たらないようにはしたつもりなんですが、、、。ノールックだったので絶対に当たらないかと言われると自信ないですし、、、。

「ただの気のせいですよこのコミュ障!服の上ですしちょっとびっくりしただけですけど壁とかに当たったら弁償なんですからやらないでください!」

「いや、、でも、、」

「な・に・か・言うことは?」

「ごめんなさい。気のせいでした。」

「まあ、フゥ様の勘って変なところで当たりますし、一応セキュリティの強化は依頼しておきます。」

「ありがとうなのです、、、。申し訳ないのです、、、。」

何かいたと思うんですけどね、、、緊張しすぎでナイーブになりすぎましたかね、、、。


ーーーーーー


やっべ。勘が鋭いぞこの子。

魔法を使って完璧に隠れていた自分に向かって魔法を打ってきた。しかも勘で。とっさに持ってた鏡で反射できたからよかったものを、そうでなければ気づかれていたかもしれない。


「いや、、でも、、」

「な・に・か・言うことは?」


何か揉めている。どうやら反射した魔法がメイドに当たったらしい。ちょっと悪いことをしたかもしれない。


「まあ、フゥ様の勘って変なところで当たりますし、一応セキュリティの強化は依頼しておきます。」


おっとまずい。そろそろ退散しよう。

侵入してきた窓からさっさと逃げることにしよう。

「今晩会いましょうね。巫女ちゃん。」


楽しみだなぁ。

フフフ♡


ーーーーーーーー


水の国との「ご挨拶」の舞台であるこの街の役所にやってきました。今は「ご挨拶」の時間まで待合室で待機中です。

「まだなのです?時間ちょっとすぎてません?!」

「準備中に花瓶を思いっきりひっくり返して盛大に割れたらしいので片付けにまだまだ時間がかかるらしいですよ。」

「それは知っているのです!スケジュールが後ろにずれると僕の睡眠時間が減るのですよ!」

「あーもう、足をバタバタさせないでください。ドレス汚れますよ?汚れたドレスで宣戦布告するのは流石に恥ずかしいですよ?」

「まあ、そうですね。早くしろと言っておいてください。」

と、取り留めのない会話をしていと、どうやら準備ができたようで役所の人が呼びに来ました。

「お待たせしました。準備が終わりましたので、こちらに来ていただけますか?」

「わかりました。では、フゥ様。行ってらっしゃいませ。」

「僕一人なんです!?コミュ障なんですけど!?」

え、一人?御付きの者とかいると思ってたんですけど?我コミュ障ぞ?

「台本を読み上げておけば大丈夫ですよ。観客側から見てますから頑張ってください。」

「え、ちょ、ま、待って。」

「それでは、炎の巫女様をご案内いたします。」

「は、はいなのです。」

結局圧に押されて一人で行くことになってしまいました。


ーーーーーーーー

「それでは只今より『演舞戦争』前日の演説会を行います!」

ついに「ご挨拶」が始まりました。互いの国の巫女が演説してから最後に互いに挑発しあって終わるというイマイチ意味のわからない会です。演説はともかく挑発する意味がわからないのですよ。

「まずは、炎の国の巫女 フゥ=アルト=フランメ様! お言葉を!」

おっと、呼ばれてしまいました。巫女として堂々と行かないと行けないですね。

「この前転んだらしいぞ〜!」

「可愛いなぁ!それで踊るときにも転ぶんじゃないかぁ?」

しょうもないヤジが飛んできます。確かに転びそうなドレスに転びそうなくらい緊張していますが、転ぶはずがありません。というのも歩いているように見せかけて、実際は3mmほど浮いているからです。名付けて「青猫作戦」!これはバレないでしょう!

暗くて良く見えませんがそっちの国の巫女には負けないのですよ。

でもなんか変な視線を感じます。しかも演説を聞く大衆の方からではなく変な方からの視線です。まあ、緊張しているだけだと思うのですけど、、、ここまで続くとなんだか心配なのですね。

何も起こらないといいですけど、、、。


ーーーーーーーーーー


炎の国の巫女、フゥちゃんが喋っています。

「だが、安心して欲しい。私がここにいるのはなぜか?勝つためである。」

明らかに台本を読んでいる視線だけどとりあえず様にはなっていますね。緊張しいなのは事前のリサーチ通り。転ばないように3mm浮いていたのも面白い。やっぱり「同郷」なのかもしれないですね。


そんな彼女を見ていると昔を思い出します。私は水の国の巫女。名前は「ワサ=クンスト=フロス」。自分が初めて大勢の前に立ったのはもう100年近く前。この世界に転生してきたと気づいたのはさらにその前。ある時、股間にあるべきものがないことにふと違和感を感じた瞬間、すべてを思い出しました。その頃の自分は、巫女の交代の時期も近く、大きな力を持っていたために親元をむりやり引き離されて国の施設で育てられていました。そのストレスで前世の記憶が蘇ったのかもしれません。巫女になった後はただただ仕事をこなしていく毎日。『演舞戦争』も元からの器用さと持っていた力で特に苦労することはありませんでした。

こんなだったのただただ同じような毎日を過ごすだけ。

そんな時だった。

「炎の国の巫女が変わったらしいですよ。」

とある日の仕事中に私専属のメイドである「オッツェン」、私はオーちゃんと呼んでいる、が話しかけてきました。

「ふーん。あの国の巫女変わったんだ。」

「新しい子は結構ちっちゃい子らしいですよ。なんでもまだ10歳?とか。新聞に写真とプロフィールが載ってますけど見ます?」

「まあ一応向こうの国のトップだし見ておくわ。」

「どうぞ。」

と写真を見せられた瞬間。心臓が高鳴りました。 

流れるような長い赤い髪、ぷっくりした頬、そして、青色の美しい眼。

可愛い。すごい可愛い。

「いつまで見惚れてるんですか?」

「あ、ああごめんなさい。新しい巫女さんは結構可愛くてつい見入っちゃったわ。」

「そうですか。ワサ様にもそんな感情があったんですね。」

「別にそういうわけではないわ、オーちゃん。とりあえず次の書類持ってきて?」

照れ隠しも兼ねて仕事に戻る。

だが、その時以降、私の頭は常に彼女でいっぱいになりました。

かわいい。かわいい。撫でたい。

そうだ!会いにいきましょう。

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