第3話【炎の国】謎の視線と10年ぶりの出発の日
そこには音楽はない。あるのは地面を踏みしめる音。火の燃える音。ただそれだけ。だからこそ『温かい』という祝福を、『熱』という呪いを、『炎』という災厄を、それは体現していた。そして、それは炎そのものでもある。炎を操り、炎と一体化し、我こそが炎そのものであると言わんばかりの迫力である。そして、最後には自分もろとも全てを燃やし尽くす。それが炎。最後には全て消えて無くなる。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
フゥ様は『演舞戦争』に向けた練習に励んでいる。今日は本番用の衣装を用いて、まさに最後の確認を行なっている。というのも、『演舞戦争』の舞台である国境の街「ステアム=ヴァーポル」までは5日かかる。そして、演舞戦争の前日は国を上げた壮大な壮行会が行われるため、練習は実質今日が最後となるからである。そして、費用の問題から本番用の衣装は2着しか存在できず、演舞の最後に衣装は燃えるので結局本番さながらの練習ができるのは今日だけということになる。
しかし、いつ見てもこの舞は美しい。フゥ様自身の動きだけでも十分に美しいが、フゥ様の生み出す炎の数、炎の動き、炎の揺らめきといった要素がそれをさらに強調している。巫女になれていたとしても自分にここまでの舞はできただろうかと思わせるほどの舞である。
これは今回こそ炎の国に勝利がもたらされるかもしれない。最近負けが続く炎の国の最後の希望。それがフゥ様である。フゥ様が負けるならば炎の国は今後一切勝てないであろう。そう思うほど美しかった。
おっと、最後のパートに入ったようだ。全てを燃やし尽くす炎に巻き込まれる前に少し距離を取っておこう。
ーーーーーー
1、2、3、4、5。1、2、3、4、5。
五拍子を基準としたリズムで自分の周りの炎を増やしていきます。もうすぐフィニッシュ。五拍子を六拍子に切り替え、さらにペースを増していくのです。
「これで、フィニッシュなのです。」
そう呟き、自分を中心とした大きな青き火柱を生成し、自分ごと天へ舞い上がらせるのです。その際に服は全て焼けてしまうが炎の制御と演舞のトランス状態に集中します。感覚が研ぎ澄まされ、さらに天へと登って行きます。
その時、一瞬誰かに見られている感覚がありました。炎の制御にリソースを裂きつつも周囲を見渡しましたが誰かいる気配はありません。ここは厳重な警備の神殿最奥にあり、侵入者が入れるような場所ではありません。
それに視覚、聴覚、さらに魔力探索を行なっても何の反応もなかったのです。
「気のせい、、、なのですね。」
そう、ただの気のせいであると考えることにした。トランス状態で変な気分になっただけなのでしょう。
どこか引っかかるような気もしつつ、演舞の練習は終わりになりました。
明日からはしばらく移動がメインになるので今日はゆっくり休むという決意のもと、ベッドインした瞬間に意識を失いました。
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やっと郊外まで出れた。バレてはいないだろうけど、ここまでくれば絶対に追手が来ることはないでしょう。これは、良いものを見れましたね。
「やっぱり今年の炎の国の巫女はかわいいなぁ。」
そう声に出ちゃいました。会えるまで後6日。
いっぱい戦って、いっぱい遊んで、いっぱい楽しみたい!そう思って帰路に着くことにしました。
『やっべ、明日出発なのに準備してない!』
「姫さまがそういうと思って準備しておきました。」
「急に話しかけないでよ。びっくりするじゃない。」
「失礼しました。今度からはよりびっくりさせるように頑張ります。」
「普通逆じゃない?まあいいわ、遠隔移動使ってさっさと帰るわよ。流石にそろそろ見回りも来そうだし。」
「承知しました。」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
そして、彼女たちの姿は光とともに消え、後に残るは足跡のみであった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ガタン!
「はうっ!」
ガタッ!
「はうっ!」
ガタガタ!!
「はううぅ!」
「何やってるんですかフゥ様。さっきから『はうはう』しか言ってませんよ。」
「全然寝れないのですよ。もうちょっと舗装しっかりして欲しいのですよ。」
演舞戦争まであと1週間になりました。今は演舞の舞台のある『ステアム=ヴァーポル』に向かって馬車に乗っているのですが、馬車がよく揺れるせいで全く眠れません。
「確かに街中より舗装は悪いですが人口密度が低くて維持管理も難しいですから多少はしょうがないのでは。」
「僕が眠れないということはそれは多少ではなく結構悪いということでは!?」
「まあ確かに、、、。フゥ様どんな環境でも寝れますもんね。巫女就任式で楽団の演奏中に寝落ちしかけたり火山地帯で溶岩が迫ってる横で寝たりしてますからね。」
「そ、そういう黒歴史をいちいち言わなくていいのですよ!とりあえず演舞終わったら道路予算の増額を命じることにするのです。」
流石にこの揺れはひどいのです。物流の円滑化の観点からもうちょっと整備費用を割いてもバチは当たらないでしょう。
「そんなに寝たいんですか?」
「はい!。」
「即答ですね。膝をお貸ししましょうか?馬車の振動がダイレクトに来ることはなくなるかと。」
「じゃあ、お言葉に甘えるのです。」
そう言ってフィーラの膝に頭を載せます。もちもちしていてちょうどいいクッション感なのです。
「おやすみなさいなのです。」
「おやすみなさい。」
あーあったかいのですーー。ふわふわなのですーーー。
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寝るの早すぎないこの巫女?そういうところがまたかわいいんですよね。健康的な白い肌、重力に沿って流れる髪の毛、そしてまだまだ成長途中と言わんばかりの肉体。いや、年齢的にはもう成長は概ね終わってるはずなんですけどね。
「良く〜♪眠れ〜♪我が腕の中で〜♪」
これは私の故郷に伝わる子守唄の一つ。フゥ様が寝るときに良く歌っている曲でもある。フゥ様は最初は『流石に子どもっぽくないですか?』とか言っていましたが今では特に何も言わずに静かに聞きながら目を閉じてくれるようになりました。
「眠れ〜♪我が衣に包まれて〜♪」
さて、ステアム=ヴァーポルまではあと5日。そして、街道は町から離れるとどんどん整備が行き届かなくなります。つまり、3日目が1番揺れることになる。膝枕程度ではおそらく眠れないだろう。
その時のフゥ様の反応がちょっと楽しみだ。
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