消えた少年

 優希のことを監視中だというのにも関わらず、相変わらずコウと櫻子の言い合いは続いていた。


 そのとき、事態の急変にコウが気付いた。


「おい櫻子、ちょっとあれを見ろよ!」


「そんな見え透いたウソにダマされるわけないでしょ!」


 櫻子はコウを睨みつけたままである。


「ウソじゃないって! いいからオレの話を真剣に聞いてくれよ! とにかく、今すぐあの野郎の部屋を見てみろよ!」


 コウは櫻子を説得するように優希の部屋を何度も重ねて指差した。


「…………」


 ただ事ではない様子を見せるコウの態度に、櫻子もようやく不審なものを感じたらしい。マンションの方にゆっくりと目を向ける。その途端──。


「えええーーーーーーーーー! なんでえええええええーーーーーーーー!」


 文字通りの絶叫である。点いていたはずの優希の部屋の明かりは、いつの間にか消えていた。無論、優希の影などまったく見えない。


「ちょっとコウ! どうすんのよ! 部屋は真っ暗だし、あいつがいないじゃない!」


 櫻子はコウの服を掴んで、上下左右にブンブンと乱暴に振り回す。


「だから、さっきから何度も言っただろうが!」


 コウも言い返すが、すでに遅きに失した感があるのは否めない。


「コウ、これからどうするの!」


「どうするもなにも、とにかく、あの野郎が消えちまったことはたしかなんだから、急いでアリスに連絡を入れないとならないだろうが!」


「――分かったわよ! アタシがアリスに連絡をするから!」


 櫻子が目にも鮮やかなキラキラと装飾が施されたスマホを取り出した。


「きっとアリスに怒鳴り散らかされるだろうな……」


 コウがやれやれという風に頭を振った。


 今夜の作戦はまだ始まったばかりである──。

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