監視する二人
アリスたちが移動を始めた同じ頃──。コウと櫻子の二人は、とある場所で別行動をとっていた。
二人に任されたのは優希の監視だった。今二人は道路沿いの塀の影に身を潜ませて、優希の住んでいるマンションの部屋を監視しているところであった。
今夜の作戦では、優希が部屋を出るのを確認したところで、アリスに連絡することになっていた。優希はまだ外出していない。部屋の窓に掛けられたカーテン越しに、優希の人影がしっかり見えている。
「さあ、これであの野郎の正体がいよいよ暴かれるってことだよな」
視線はしっかり窓に向けたままコウが興奮気味につぶやいた。
「ぐずぐずしてないで、さっさと部屋から出てきやがれ」
「ちょっと、コウ。もう少し静かに監視することが出来ないの?」
コウと同じように窓を見つめていた櫻子がすかさず忠告する。
「なんだよ、いいじゃんかよ。これから最高のショータイムが始まるんだぜ。これが興奮せずにいられるかって」
「だから、あんたはマッスルバカって言われんのよ! いい、アタシたちの役目はあいつの監視なのよ? あいつに気付かれないように、静かにしていなきゃいけないことぐらい分かるでしょ!」
「心配するなって。気付かれたときは、オレがあの野郎をとっ捕まえてやるからさ。それでいいだろう?」
「良くないわよ! アタシたちのやるべき任務は決まっているのよ! 勝手にチームワークを乱さないで!」
「あのな、物事には臨機応変に対処しなきゃならないときだってあるんだよ!」
二人の言い合いは次第にヒートアップしていくのだった。
────────────────
あの二人はいったいあんなところで何を騒いでいるんだ?
優希は窓の隅から顔を覗かせて、塀の影に隠れているあの倶楽部の部員である二人の姿を見下ろしていた。
おそらくボクのことを見張っているんだろうけど、あれで隠れているつもりなのか?
二人が身を隠している場所は、優希の部屋からは丸見えだった。もっとも、それはあくまでも街灯の光が届いていればの話であって、今二人が隠れている塀の影は完全に暗闇で閉ざされていた。普通ならば、二人の姿を目で確認することは出来ないはずだった。だからこそ、あの二人もそこに隠れたのだろう。
しかし、優希は影に潜んでいる二人の姿をしっかりと肉眼で捉えていたのである。優希の目は暗闇を見通すことが出来るのだった。その産まれ持った『血筋の力』によって──。
そろそろ、時間だな。とりあえず、あの二人の目を上手い具合に盗んで、外出するとしようか。
優希はカーテンを静かに閉めると、マンションの部屋を出ることにした。
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