作戦決行!

 場所は千本浜高校。時刻は夜の七時三十五分。校内の明かりも非常灯を残してすべて消え、あたりは夜の帳にすっかり覆われていた。


 アリスたちがいる校庭の隅は、近くの街灯の光が届いている為明るかったが、校庭の中央付近はすでに真っ暗な闇と化していた。


 今ここにいるのは、アリス、さき、京也、のどかの部員四人と、カミラときららの二人である。コウと櫻子は別行動をしている為、ここにはいない。


「夜の空気はやっぱり美味しいなあ」


 危険なワナを仕掛ける前だというのに、能天気な感想をもらしたのはさきである。


「ワナを仕掛けるにはちょうどいい時間だな。もしものときも、周りに迷惑を掛ける心配がなくて済むからな」


 京也は校庭の方を注意深く見つめている。


「二人ともそろそろ時間になるけど、本当に良いのね? 今からでも、あたしかのどかが変わってもいいんだよ?」


 アリスは今回のワナを実行する上で、鍵となる二人に最終確認をした。


「大丈夫よ、アリスさん。もうここまできたんだから覚悟は出来ているわ。心配しないで。最後まで上手くやってみせるから」


 今回の作戦の発案者であるカミラは怯える様子も見せることなく、むしろどんと構えている。冴え冴えとした月の光に照らされているカミラの顔は、やけに色っぽく見えた。


 アリスは次に視線をきららに振り向けた。


「きららさんの方はどう? 大丈夫?」


「──はい、わたしも大丈夫です」


 アリスの問い掛けに対して、きららは若干表情は硬かったが、しっかりと返答をした。


「二人とも分かったわ。──それじゃ、そろそろ各々の配置に移動開始するわよ」


 アリスとさきは校舎の南側に植えられている大きな樹の裏で待機することになっている。のどかと京也の二人は、アリスたちとは反対側に位置する校庭に設置されている照明スタンドの裏側で待機する。優希と対することになるカミラときららは、校舎の生徒用玄関口付近で優希が来るのを待つ。


 千本浜高校の校舎の位置を知り尽くしているカミラが、それぞれのポジショニングを決めた。アリスとしても特に口を出して反対することはなかった。


「──カミラさんもきららさんも気をつけてね。下手に相手を挑発する必要はないから。それから、もしも危険だと感じたら、そのときは作戦の途中でもいいから、すぐに逃げ出すこと。分かった?」


 アリスは移動する前に、もう一度カミラときららに注意を促した。


「はい、分かりました」


 きららが硬い表情で頷く。


「アリスさんたちのことを信じているから」


 カミラは若干、表情に余裕が感じられた。


「京也、移動を始めましょう──」


 のどかが腕時計に目を飛ばした。


「ああ、分かった。おれたちはもう行くけど、何かあったらすぐにこの場所に駆けつけるから。カミラさんたちも心配はいらないから」


 京也がのどかと一緒に移動を始めた。


「ほら、さき。あたしたちも行くから付いてきて」


 アリスはまるで散歩に出かける飼い犬に呼びかけるようにさきに声を掛けると、自分たちの待機場所へと移動を始めた。


「さあ、後はあの二人からの連絡待ちね」


 アリスは歩きながらそっとつぶやいた。

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