会議は続くよ、どこまでも
「それじゃ、まずはコウからね。──コウはおじさんから何かこの事件に関して聞いていないの?」
アリスは最初にコウに話を振った。
コウの父親は警察の『
「ダメダメ。オヤジは今別の事件で忙しいみたいで、地方の小さな怪奇事件なんて、耳にも入っていないみたいだからな」
コウは頭を左右に振って否定した。
「それじゃ、しょうがないか」
アリスはため息混じりに頷いた。
「のどかの方はどうかな? 先生が気付いたことはないの?」
今度はのどかに話を振る。今回の被害者が診断と治療を受けているのが、のどかの家──白包院病院なのだ。院長はのどかの父親である。
「こっちもダメね。血液が抜かれていることと、今だに被害者の意識が戻らずに、昏睡状態にあるということ以外は、まだ新しいことは何も分からない状態よ」
のどかはすらすらとよどみなく答えた。
「二人とも事件のあった夜にうちの病院に運ばれてきてから今日まで、ずっと病室のベッドの上で眠ったままよ。襲われた恐怖で意識が殻に閉じこもってしまっているのか、それとももっと他の要因があるのか、それはまだ分からないけれどね」
「その状態だと、被害者に事情を尋ねるのは無理ってことか……」
「そうね、二人の意識が戻るまで話を聞くことは出来ないわね」
調査会議は早々に壁にぶつかってしまった。
「うーん、困ったなあ……。でも、今分かっていることだけで犯人の正体を推理すると、やっぱり人間の仕業だとは思えないんだけど……」
アリスの考えは、最終的にどうしてもそこに行き着いてしまうのだった。
「おいおい、アリス。のどかの言葉をもう忘れたのか。犯人が人間なのかどうかは、この際後回しにするって言っただろう」
京也が優しく訂正してくれる。
「分かってるわよ。あたしだって、この街に本物の吸血鬼がいるなんて本気で思っていないから。ただね、『あたしたちの身近』に──」
そう言ってアリスは意味深な視線でもって、さきのことを見つめるのだった。
「えっ? 何の話をしているの……?」
相変わらずぼんやりとした表情でイスに座っていたさきが、アリスに向かって不思議そうな顔を向ける。
「あんた、いったい今まで何を聞いていたのっ! みんなで真剣にあの事件の話をしていたっていうのにっ!」
アリスは今にも噛みつかんばかりの顔でさきを睨みつけた。
「うん、ちゃんと聞いてたよ。でもさ、ぼくらの種族って、『朝に弱い』から、聞いていたことが頭にしっかり入ってこないんだよね」
さきはすでに頭をこっくりこっくりさせ始めている始末である。
「うるさいっ! さきの種族が『朝も昼も弱い』ことは分かってわよっ! いい、 よく聞いて。この事件で一番近い場所にいるのが、さきかもしれないのよっ!」
「えっ? ぼくが? ていうことは、ひょっとして犯人は──」
「そう、犯人は──」
「ぼくなの?」
さきの一言の後に、氷のように冷たい沈黙が流れた。その沈黙を打ち破るようにして──。
「あんたね、今度くだらないことを言ったら、日焼けマシーンに一日中閉じ込めておくからねっ!」
アリスはイスから立ち上がると怒声を張り上げた。
「ははは……。や、や、やだな、アリス……。じょ、じょ、冗談だってば……冗談……。ほら、アリス……瞳が『真っ赤』に輝いているよ……。『素』が出ちゃっているから……」
いつもは能天気なさきも、さすがにことの重大さに気が付いたのか、必死にフォローの言葉を続ける。
アリスはきっちり5秒間さきのことをきつく睨みつけてから、イスに座りなおした。
「とにかく、今この街で起きている怪奇な事件を、あたしたち怪物探偵倶楽部の手で絶対に解決するわよ!」
長テーブルを両手でバンッと叩き、決然とした顔で決意表明をするアリス。
「まあ、このまま黙って指をくわえて見ていて、いざ第三の事件が起きたとなったら、さすがに気分が悪いからな。オレたちで調査してみるのも悪くないかもな」
コウもようやくヤル気を出してくれたらしい。
「まったく、アリスは一度言い出したら、絶対に引かないからね。そこまでいうのであれば、アタシも協力は惜しまないから」
コウと櫻子の意見が合うのは珍しいことだった。
「被害者が二人も出ているとなると、しかも、おれたちと同じ高校生だとなると、余計に気にはなるよな。どこまで出来るか分からないが、やるだけのことはやってみようぜ」
京也が前向きな言葉を発する。
「わたしもひとついいかしら。蛇足的なことを言わせて貰えば、この一件をわたしたちの手で解決出来たら、わたしたちを見る周囲の白い目も変わってくるでしょうからね」
のどからしい鋭い分析結果を披露した。
「みんな、ありがとうね」
アリス以下、部員たちがそれぞれに士気を高める中──。
「うん、そうだね。みんなで頑張ろうか。でもぼくとしては、出来れば朝と昼間の時間以外に活動したいんだけどなあ……」
さきは眠そうな声で、ボソッとつぶやくのだった。
そのとき、突然、アリスのスマホの着信音が鳴り出した。
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