第一章 初めての調査依頼
朝の部室にて
「大変よ! 大変よ! チョー大変よ! 本当に大変なんだから!」
その日の朝、
大きな足のスライドとともに、ショートカットに切り揃えた髪が、これでもかといわんばかりに大きく前後左右に揺れている。首に付けているネックレスも今にも飛んで行きそうな勢いだった。
それが、この少女の名前である。ボーイシュッさと可愛らしさとが見事に融合し合った、美少女と呼ぶにふさわしい容姿をしている。アリスは右手に握り締めた新聞をホームランバッターのようにぶんぶん振り回しながら、部室へと駆け込んで行った。
「みんな、大変よ! ビッグニュース! 絶対に驚くこと間違いなしよ!」
興奮を隠し切れない声をあげながらドアを開け放ち、部室に入ったアリスの前に、いつもと変わらぬ面々の姿があった。揃って何事かという表情を浮かべて、アリスを出迎える。
「何よ、アリス。朝からうるさいわね。高校生になったんだから、もう少し上品に朝を迎えられないの」
最初に反応したのは、
「それで、いったい何をそんなに騒いでいるの?」
「だから、大変なんだってば! 昨日、また例の事──」
アリスが言い終わる前に、話に割り込んできた者がいた。
「大変大変って、大変の大安売りだな」
やれやれといわんばかりの声の主は、
「だって、本当に大変なんだからしょうがないでしょ! あのね、昨日──」
再度言い掛けたアリスだったが、言い終わる前に、結論を先回りした者がいた。
「また『例の事件』が起きたんだろう?」
口を挟んできたのは、百九十近い身長と、ボディビルダーのような筋肉質の肉体を器用に丸めて、漫画週刊誌を読んでいた
「ちょっと京也、先に言わないでよ! わたしが持ってきた特ダネだったのに!」
「悪い悪い。話が全然前に進まないから、つい口を出しただけだから、勘弁してくれよ」
頭に手をやりながら謝る京也の顔には、悪気はいっさい感じられない。こういうところが京也の魅力なのだ。
「とにかく、みんな、この新聞を見てよ。どうせコウと櫻子は今朝のニュースなんか見てないでしょ」
アリスは部室の真ん中にどんと置いてある長机の上に、手に持っていた新聞をぱっと広げた。
「あのな、オレだってニュースぐらいは見るぞ。スポーツニュース専門だけど……」
コウが不満そうにつぶやいた。
「あんたね、たまには教養のあるニュースぐらい見たらどうなの?」
櫻子がすかさずコウに容赦ないツッコミを入れる。
「なんだよ。そう言う櫻子はどうなんだよ? ちゃんと教養のあるニュースを見てるのか?」
「当然じゃない。あたしたちはもう立派な高校生なのよ。遊んでばかりいた中学時代とは違うんだから。毎朝のニュースをチェックするのは当たり前よ! あたしなんて、ちゃんと習慣になっているぐらいだし」
「それじゃ聞くけど、今朝の大きなニュースは何があったか、教養の足りないオレに教えてくれよ」
「えっ? それは……その……つまり……」
途端に口ごもる櫻子。
「その、なんだって?」
形勢逆転と見て取るや、撃って出るコウ。
まさに一触即発の状態か、というと、実はそいうわけではなかった。この二人の口ゲンカは毎度のことなのだ。犬猿の仲という言葉があるが、二人は差し詰め『犬猫の仲』といったところだろうか。
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