Lux.6 一致
(あった)
それはクエラが持ってきた星紋よりは若干ぼんやりとしている光の筋だ。白色矮星を記す部分など確かに似ている筋もあるが、全体としては別物のようだった。しかし、手の中にある虹を広げた彼女は、パソコン画面の中のスペクトルと重なるように持ち上げてみる。
「待って……。嘘でしょ……」
クエラが彼女の後ろからパソコンを覗き込み、首を傾げる。「どうしたんですか? 全く別の星紋ですよね?」
確かにクエラが言うように、二つのスペクトルは全く異なっているように見える。しかし、それぞれに刻まれた〈シャドウノイズ〉だけはピタリと一致していたのだ。正確には、クエラが持ってきた星紋に比べて惑星ジェリスの星紋の方がその影はやや多めだが、虹色の筋を上下に揃えて並べてみると、惑星ジェリスの〈シャドウノイズ〉はクエラの星の〈シャドウノイズ〉を完璧に組み込んでいるかのようにみえる。こんなことはまずありえない。〈シャドウノイズ〉は、光源によって数も間隔も全く異なるものだからだ。しかしこうしてみてみると、虹色を描く紫、藍、青、緑、黄色、オレンジ、赤色――それぞれのバランスが似通っているようにもみえてくる。
彼女はおもむろにスマートフォンを取り出し、海外某所へと連絡を入れた。今アメリカは昼間だから担当者は寝ているという返事に対し、不慣れな英語で緊急要件であることを伝える。一刻も早くTESSによる惑星ジェリスの最新スペクトル情報が欲しかったのだ。
つまり、惑星ジェリスの星紋はクエラの星の星紋を内包している。どうにかして、この謎の答えを導き出したい――
なんとか担当者に約束を取り付けた彼女は、ふぅと息を吐いて心を落ち着けようとした。タバコは吸えないが、一服したい気分だ。少し時間ができたのでと、クエラにコーヒーを振舞った。礼儀正しい少年がお礼を言ってカップに口をつけ、彼女自身もコーヒーを口の中に沁み込ませている途中、スマートフォンが鳴った。待ってましたとばかりに通話相手と早口で一言二言交わしてから、パソコンに飛びつく。そして、自分の額に手をペチンとあてた。
「信じられない……」くるりと椅子を回し、クエラの方を向く。「あなたが探している恋人のスペクトルが、私の先生の星――惑星ジェリスのものと一致した……」
「そう! ジェリス! ジェリスだ!」クエラは宝物を発見したかのように喜んで、目を輝かせた。「僕の恋人はジェリスっていうんです! すごい、本当に見つけてくれたんですね!」
こんなことが本当にあるのだろうか。彼女は驚きを隠せないまま、もう一度パソコン画面に目をやった。スペクトルの精密検出の結果が、惑星発見当時の結果と少しだけズレていたのだ。
(今までの検出結果が間違っていた?)
微小のガス集団が観測域を通過でもしていたのだろうか。
「観測士さん、ありがとう。おかげで僕は彼女を見つけて、名前を思い出すことができました」
クエラに目をやると、彼女はまた信じられないものをみた。
「もう一つだけ、僕のお願いを聞いてくれませんか」
そう言って彼女を見つめるクエラの瞳が、虹色に輝いている。スペクトルの光を反射しているのではない。明らかに、彼自身の瞳が虹色に発光していた。
「僕のスペクトルをジェリスのもとへ送信してほしいんです」
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