とろろそば
決して口には出さないが俺は自分がモテるコトを知っている
35年間、毎朝洗面台の鏡越しに見てきた自分の顔が取り分け美形だとも凛々しいとも思ってはいないが、おそらくこの顔のオカゲで、常に自分に云い寄って来る人がいる
女性に興味がないワケではないのだが
中学の頃から、告白されるのは決まって同性だった
思春期にソレは少なからず抵抗はあったが
気付けば俺の隣には常に彼氏と云う存在がいて、ソレを受け入れていた
今でこそLGBTとかセクマイなどと云って市民権を獲はじめてはいるが、その呼び名通りマイノリティであるコトに変わりはない
マイノリティ同士と云うのは鼻が利くモノで、特別な感情を抱かなくとも視界に入ればソレを嗅ぎ分ける臭覚が身に付くものだ
と云うのも今この店内で隣のテーブルに座っているOL二人組、背の高い方の女性に見覚えがある
休みの日によく行く蕎麦屋での遭遇率が半端ない
俺の中で密かに「とろろちゃん」とあだ名を付けていた程だ
なぜ俺が彼女にあだ名を付けるようになったかと云うと
俺と彼女が恋に落ちる可能性が皆無な対象だからだ、同じ臭いがした
つまり、彼女もなんらかの形でマイノリティと呼ばれるタイプの女性なのだ
決して恋に落ちる危険性のない女性が故に、もしもお近づきになれたなら、きっと良い友達、もしくは親友になれるのではないかと、気にはなっていた
一緒に来ているもう1人の女性は意志の強そうな面構えで喋り口調もハキハキとしている
丸聞こえとまでは云わないが、話の内容を掴める程度には声が漏れ聞こえてくる
行き付けのバーのバーテンさんに恋をしているようだ
同僚のところちゃんに恋愛相談と云ったところだろう
連れの女性の顔は視界には入るが、俺はところちゃんが彼女の恋愛相談をどんな顔をして受けているのか
そしてところちゃんはどんなアドバイスをしているのかが物凄く気になった
昼の休憩にこの店にランチを食べに来たのだろう
午後の始業時間に間に合わないと云わんばかりにトマトクリームのパスタの最後の一口を頬張ると二人ともいそいそと店を後にした
俺が今日たまたま蕎麦屋ではなくこの店に居たのはちょっとした運命だったような気がした
少なくとも、今日はラッキーな休日だ
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