ライフワーク

淹れたてのコーヒーとトーストの焼ける臭い

普通はこれが芳ばしい香りなんだろうけど

俺にとっては憂鬱な仕事を始める臭いでしかない

早くに両親を亡くした俺にとって数少ない親族

あの無精髭の叔父貴が遺した唯一の遺産がこの店だ

社会に適合出来ないタイプの俺にとっては

この店を継ぐ以外に選択肢はなかった

叔父貴はどうしてこんな店に愛情を注げたのだろう?


客は店主の俺を見下して偉そうな態度だし

今の客もそうだ

灰皿は入口の外に設置してあると案内しただけで

不機嫌な顔で舌打ちして俺を睨んだ


毎月月末になるとやって来るあの子汚いオバサンも気に障る

決まってあのオバサンが先に入店して仔供が後から入ってくる

一番安いランチ・セットを一人前

母親がコーヒーを飲み仔供にハンバーグを与える

貧乏なのか?ケチなのか?

そしてキッチリ一時間で仔供が先に店を出て行く

一人残された母親はコーヒーのお代わりを

どーせ今日も1番安いランチ・セットを一人前オーダーしてくるんだろう


さっきまでは若い女の子達もいて賑やかではあったが

コレと云って何か会話をするワケでもなしに

もっとも、共通の話題などないくらい歳が離れていたが


毎日毎日「いらっしゃいませ、ご注文は?」の繰り返し

こんな店に執着していた叔父貴の気が知れない

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