立地最高。しかし前の住民の夜逃げにあったという古いアパートの部屋へ、面倒な手間をかけて引っ越した“俺”。翌日仕事へ出かけようと外へ踏み出しかけて、唖然とする。なぜなら彼の部屋だけを残し、世界が消失していたからだ。しかし、その虚空には自室以外のものが在った。そう、同じように浮かんだ三つの部屋と、その内の住人が。
切り離された異空間の中、互いの言葉すら届かない隣人たちとの交流劇。それは重ねられるにつれ、謎を深めていきます。その展開が言うなれば助走になっているのですよね。進むにつれ加速していって、クライマックスで一気に解(ほど)ける。設定がすばらしく練り込まれていて、主人公の俺さんの心情描写が実に濃やかであればこそ、到達する真実はなにより鮮やかに浮き彫られて。その果てに露わとなるオチがなんなのかは言わずにおきますが、本当にお見事としか言い様がないのですよ。
注目していただきたいポイントは「後味」! ぜひともみなさまにご体感いただきたく、推させていただきます。
(「春だからスタート!」4選/文=髙橋 剛)