第10話 意識する瑠希
萌が加わってドランとドレミと四人で歩く事になった瑠希。思ったより大所帯になった。
ドランは相変わらず遠足に行く子供のように喜んでるし、ドレミは緊張しているのか言葉数が少なくて積極的には話しかけてくれないし、萌には見張られているようで落ち着かない。
この状況でわたしに案内しろと? 瑠希は別に町を歩くのが好きなアウトドア派ではない。休みの日には家でゴロゴロしているのが好きなインドア派の方だ。
こういう事は誰か優秀なガイドさんにやって欲しかった。仕方ないので遊ぶのが得意そうな陽キャの友達に聞く事にする。
「萌ちゃんはどこかおすすめの場所とかある?」
「るっきーが決めていいよ。あたしはこのデートを見届けるだけだから」
「別にデートじゃないんだけど……」
二人に町を案内するだけだ。瑠希はその程度の認識だったが、萌の瞳にはそれだけでは済まさないよと言わんばかりの眩いオーラのようなものが感じられた。
これはどこか気の利いた案内をしないと友達の中から何かが減点されてしまいそうだ。
瑠希も普通の人間なのでやはり友達の前ではいい恰好を見せたかった。
「るっきーがどう思うかはともかく、竜神にはガツンとしたところを見せないと駄目だよ」
「ガツンとじゃないと駄目?」
「そうそう。るっきーの家は竜神を鎮めた神社でしょ? なら舐められない態度は必要になるよね」
「そうなのかなー。わたしには家の事はよく分からなくて……」
あまり興味が無くてずっとダラダラ過ごしていた。竜神の事をネットで調べたのもドランが来てからの事だった。
「あたしも最初は竜神が来るなんて驚いたけど、伝説で語られるほど悪い子じゃなさそうだし、るっきーはどう思ってるの?」
「う……うん。よく分からないけど、嫌いではないかな」
「じゃあ、好き?」
「好きかと言われるとそれも違うと思うんだけど……」
この場合の好きとはもちろんライクではなくラブの事だ。嫁にすると言われてるんだからそれぐらいの自覚は瑠希にもあった。
自分の気持ちは曖昧でよく分からない。
本当はドランの事が好きなんだろうか。嫁にするといきなり言われた時はびっくりした。両親もそれに賛成してまたびっくりした。
今の所はそれぐらいの事だ。それだけの事で何が判断できるというのだろう。
「萌ちゃんはどう思う?」
「あたしはまだ様子見だと思ってるけど取られたくはないかな」
「取られたくないんだ」
「そりゃねー、あたしのるっきーが狙われてるわけだし」
「そっち?」
「妹を嫁に寄こせと言われたお姉ちゃんみたいな気分?」
「わたしは萌ちゃんの妹になった覚えはないよ」
瑠希にも自分の思いはよく分からなかった。ただ分かっているのはドランをこのままドレミが連れて去るのは面白くないということだ。
ドレミの方を見ると彼女はよく分かっていないようできょとんとしていたが。別に彼女の事が嫌いなわけではない。
この気持ちを何といえばいいのか分からないが、とにかく面白くないのだ。
「ほら、そんな辛気臭い顔してないで、早くドラン君を案内しなよ。あたしは見てるから」
「うん、そうだね」
萌に促されて瑠希は歩き出した。みんなを連れて交差点を渡り、道を歩いていく。
「とりあえずどこに行くのかな。電車に乗るとか?」
「まあ、今日は休日だし、ラッシュ時間でもないから混んではいないとは思うけど……」
町を知っている萌と行き先を相談する。
瑠希と萌は同時にドランの方を振り向く。彼は笑って言った。
「俺達は図書館に行くんだぞ」
「ああ、そうだったね。じゃあ、電車に乗る必要はないか」
何をデートスポットを意識しているんだろうか自分は。萌が変な事を言うから変な事を意識してしまった。
最初の予定通りに図書館に行こう。萌が妙な事を言わなければもっと自然体でいられたはずだ。
いつもの態度を意識しながら瑠希は何度か通った事のある図書館に向かう事にした。
「図書館でいいの?」
「いいの。ドランが行きたがってるし、わたし達にはお似合いだよ」
萌が小声で囁きかけてくるのにそう答える。実際ドランが楽しそうにしているのを見れば萌もそれ以上は何も言わなかった。
図書館に行くのは久しぶりだ。通っていた頃の事を思いだすと瑠希の足取りも小学生だった時のように自然と軽くなる感じがした。
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