第4話 萌の判断

 その少年は神社に残ったので学校に行く間は離れることが出来た。両親に裏切られた瑠希の頼る相手は一人しかいなかった。

 学校に行く途中で彼女に会うなり飛びついた。


「萌えもん、助けてー!」

「どうしたの、ルッキー」


 いつにない取り乱しように驚く萌に瑠希は事情を説明した。聞き終えて萌は真面目な探偵のような顔をした。


「竜神が求婚に来るなんて、さすがはルッキーだね」

「本人は昔暴れた奴じゃなくて、その孫らしいんだけどね」


 昨日時間があったので彼の事をいろいろ聞く事ができた。ほとんどは両親と彼が話していただけで、瑠希は聞き耳を立てていただけだったが。

 その態度を恥ずかしがっていると言われたが、別に恥ずかしがってはいない。何を話せばいいか分からなかっただけだ。

 慌てる瑠希の前で萌は落ち着いて結論を出した。


「それなら簡単だよ。もう恋人がいる事にすればいいんだよ」

「恋人なんてあたしには……」


 恋人どころか友達もここにいる一人しかいないのにどうしろと言うのだろうか。ただ一人の友達は何も慌てたりせずに笑顔を見せた。


「たっくんに声を掛けてみるよ。わたしはたっくんとるっきーなら応援できると思うんだ」

「拓哉かあ……」


 正直、彼とは子供の頃に一緒に遊んだだけなので何も成功できるプランが見えない。だが、萌先生がおっしゃるので任せることにした。


「分かった。お願いね」

「任された」


 さて、話も終わったところで元の学校生活に戻ろう。

 家でいろいろあると毎日退屈だった学校が安住の地に思える。安心する瑠希だった。




 だが、安住の地は長くは続かなかった。先生が奴を連れてきたのだ。


「転校生を紹介するぞ」

「竜島ドランだ。瑠希を嫁にしに来た」


 途端に賑やかになる教室。中学生はまだまだ遊びたい盛りだ。突然湧いてでたネタには大層盛り上がった。


「嫁にするってどういうこと!?」

「あいつの事は浩二が狙ってたのになあ。残念だったなあ」


 そんないろいろな声が聞こえるが今の瑠希には関係ない。問題がここまで来た事に頭を抱える瑠希の隣で萌が元気に立ちあがった。


「あなたが噂の竜神様ね。君にルッキーは渡さないよ」

「なんだ、この女は」

「ルッキーは今度の休みにデートするの。ちゃんと本人の決めた恋人とね。だからあなたの入る場所はもうここには無いのよ」


 別に拓哉は瑠希の決めた恋人ではないのだが、口を挟める雰囲気ではない。

 二人の間でバチバチと火花が散った。そんな感じがした。




 デートの日は思ったより早くやってきた。いきなりセッティングされた仮の遊びでも身だしなみはきちんとして行かなければいけない。萌にも口を酸っぱくして何度も念押しされたのでちゃんと準備した。

 手持ちのアイテムの中で出来るだけのお洒落をして瑠希が近所の動物園の前にやってくると拓哉はもう待っていた。


「久しぶりだな。る……瑠希……」

「うん、久……しぶり」


 お互いにぎこちない。久しぶりの会話だから無理もないかもしれない。

 瑠希自身は元から話し下手だし、拓哉も緊張しているようだ。しっかりしろなんて自分の出来ない事を相手に要求したりも出来ない。

 下手な事を言ってこじれると瑠希のコミュ力では立て直せないので、ここは慎重に様子を伺う。チラッと彼を見る。

 背が伸びた気がする。もう中学生なんだから当然か。見守っていると彼が言った。


「ここはパンダがいるらしいぞ」

「それよりクワガタ……」

「え……?」

「ううん、なんでもない」


 何で今頃になってあの時クワガタに触らせてもらえば良かったなんて思っているのか。

 瑠希はもうこれ以上余計な事は気にしない事にして中に進む事にした。足をそっちに向ける。


「山より面白い奴がいるといいね」

「ああ、きっといるよ」


 二人で中に入っていく。それを萌は物陰から採点して、ドランは空から見ていた。


「あんな人間の何が良いんだ? 俺の方が凄いって教えてやるぜ」


 彼は竜の翼をはばたかせて地上へと降りていった。

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