第2話 平凡な少女の中学生活

 それから月日が流れ、瑠希も今時の中学生になった。

 親が神社の神主をしている瑠希は神社の離れの家に暮らしている。

 スマホを触りながら食事をしていると親に注意された。


「瑠希、食事の時ぐらいスマホをしまいなさい」

「はあい」

「学校は楽しい?」

「別に」


 瑠希は毎日の生活に退屈していた。学校のみんなは楽しそうにしているが、瑠希が心を弾ませるような事は無かった。

 学校に行くのは面白くないが、それでも学校の時間になったら登校しなければならないのが学生というものだ。


「行ってきます」


 朝食を終えて身だしなみを整え、めんどくさいと思いながらも瑠希は玄関を出て学校に向かうことにした。




 暖かな朝日の照らすいつもの通学路を歩いていく。気だるさを感じながら歩いているといきなり背後から肩を叩かれた。


「おはよう、ルッキー」

「おはよう、萌ちゃん」


 親友の若草萌は朝から元気だ。輝くような彼女には中学のセーラー服がよく似合っている。瑠希はため息を吐くだけだ。


「どうしたの、ルッキー。朝から元気が無いよ」

「これから学校だっていうのに元気がある人が信じられないよ。だる。学校なんて滅びればいいのに」

「友達と会えるの楽しいじゃん。わたしは楽しいよ。今朝もルッキーと会えたしね」

「絶対に一人でスマホいじってた方がいいって」


 萌は何が楽しいのか瑠希の腕を取って自分の腕と絡めてひっついてくる。瑠希はうっとうしいと思いながらも振り払うのも面倒なのでそのままにしておく。

 二人で歩いていく。そんな朝の通学路だった。




 中学校は朝から賑やかだった。瑠希はこの賑やかさが苦手だった。

 もう少し音量を下げて静かにして欲しい。願っても言いはしなかったが。

 一緒に教室に入った萌がその賑やかさに負けじと元気な声でみんなに挨拶した。


「みんな、おはよう!」

「おはよう、若草さん」

「ルッキーもおはよう!」

「ああ、おはようね」


 通学路で会って一緒に登校してきた自分にまで挨拶はいらないだろうに。萌の気まぐれに文句を言っても仕方が無い。めんどくさいと思いながらも瑠希は適当に挨拶を返して足を進める。

 席に着き、萌も隣の席に着く。彼女と瑠希は隣同士の席だった。音楽でも聞こうかとイヤホンを出しかけたところで萌が身を乗り出して横から話しかけてきたので、瑠希はその手を下に下した。


「ねえ、ルッキーって最近たくやんと話してなくない?」

「最近どころか中学になってから話してないけど」


 たくやんこと木下拓哉は子供の頃は近所で一番の活躍が目立つ子供だった。そんな彼も今ではすっかり真面目な秀才が板に付いていた。

 昔は一緒に遊んでいても年が経つほどに疎遠になっていくものだ。瑠希はそう思って気にしていなかった。萌は声を潜めて話を続けた。


「たくやん、この前のテストで一番取ったらしいよ」

「へえ、そりゃ凄いね」

「勉強教えてもらおうよ。わたし達友達じゃん」

「あたしは別に勉強に興味ないし」


 普通の成績が取れていれば十分だ。瑠希はそう思うが萌は引き下がらない。


「ええー、一緒に行こうよ。るっきーがいないと面白くないじゃん」

「あたしがいなくても何も変わらないでしょ」

「だって、たくやんはるっきーの事……おっと、先生が来たようだ」


 教室に先生が入ってきてチャイムも鳴って、萌は話をそこで打ち切った。

 元より話をするのが好きではない瑠希も前を向く。

 友達が多くて誰とでも打ち解ける萌がなぜ自分に構うのか、瑠希にはさっぱり分からない。

 ただいつものように起立して礼をして今日も退屈な授業が始まったなと思うのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る