平凡な我が家の神社に伝説の竜神の孫が来ました

けろよん

第1話 若かりしあの頃

 ごく普通のどこにでもいる平凡な少女、竜島瑠希の暮らしている神社の裏には山がある。

 あれはまだ彼女が幼い子供だった頃の事。まだ幼さ故の子供らしい好奇心いっぱいの純粋な心を持っていた時代の事だ。


「カブトムシいたかー?」

「まだー」


 瑠希は近所の子供達と一緒に神社の裏山に遊びに来ていた。そこは自然がいっぱいの場所。近所の子供達で誰が一番凄い虫を捕まえられるか競争していた。


「るっきー、わたしはあっちを探すからね」

「うん、じゃあ、あたしはこっちを探すよ」


 誰にでも優しいほんわかした明るい笑顔が印象的な親友の若草萌と別れ、瑠希は一人草むらに踏み入っていく。


「カブトはいないかなー。せめてクワガタがいれば自慢できそうなんだけど……」


 木々を見上げながら歩いていて気づかなかった。地面に転がっていた物があったことに。ぐにゃ、足で踏んだ感触に跳びのいた。


「うわっ、何か踏んだ」


 見るとそこにいたのは胴体が太くて短い蛇のような生き物だった。


「ツチノコ? まさかあなたはツチノコなの!?」


 UMAを特集したテレビ番組を思いだす。

 瑠希の瞳は子供さながらの希望に煌めいた。ツチノコといえばネッシーやエリマキトカゲと並ぶ凄い謎の生物トップランカーだ。

 捕まえればみんなに自慢できる。カブトやクワガタよりも。だが、そのツチノコの様子がおかしかった。見ると手に怪我をしているようだ。

 ツチノコに手? 不思議には思ったが相手が動かないので目を寄せてみた。


「体にあるのは鱗みたいだし、頭に角があるような。あなたってツチノコじゃないの? 本当に不思議な生物ね。まあ、いいわ。手当してあげる」


 何か捕まえようという気が失せてしまった。元気のない奴を連れていっても面白くない。演者に芸が出来ないのではみんなも喜ばないだろう。


「今度は元気な姿を見せてよね」


 瑠希は持っていたハンカチでツチノコの手の傷を縛ってやると、その場を立ち去ることにした。

 もう彼女の意識にはもっと活きのいい凄い奴を見つけてやろうという意欲しかなかった。


「もっと面白い奴いないかなあ。ツチノコがいたんだからシーラカンスもいそうな気がするわ」


 この山は広くて秘境といった雰囲気がある。竜神を祀っている神社の裏手にあるというのも神秘性を高めている気がする。

 だが、結局それからは凄い奴は見つからず、クワガタを見つけた拓哉君がチャンピオンとなったのだった。

 親友の萌は素直に彼を誉めていた。


「たっくんは凄いねー。わたしはカマキリしか見つけられなかったよ」

「あたしはバッタ」


 そんなことを友達と話していると当のチャンピオン拓哉がやってきた。勝利者の余裕の態度で自慢するように見せてくる。


「瑠希、このクワガタが欲しいか? どうしてもって言うなら触らせてやってもいいんだぞ」

「いらないよ、そんな虫」


 ツチノコを見たのに今更こんな物で喜びはしない。求めるのはもっと凄い奴だった。

 瑠希はもう帰ることにする。遊びが終わったならもうここには用はない。

 後にはぽかんとする拓哉と苦笑する萌と元気な子供達がいた。

 そんな瑠希の子供時代だった。

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