第8話 お婆さんの要求 ③

 俺は、素材集め効率化の為にすこーしだけレベルアップを目的に闘技場に出場した。が、対戦相手が思いの外やべぇ奴だった。パワーをこよなく愛する男ねぇ……。


「アイテムコレクター風情が俺様の愛を壊せると思うな。逃げるのなら今のうちだぞ?」

「逃げる? それじゃあレベルあがんねぇだろうが。俺はお前とかどうでも良い。倒せやいいんだろ」

「そうだ。此処にルールは無い。まぁ、そこまでイキるのなら、楽に殺してやろう」


 確実に殺される。正直言って対人戦は初めてだし、勝算は無いに等しい。俺は別に生前喧嘩が強い訳でも無かったし、逆にネット友達が多かったから、喧嘩なんて文字のやり取りしかやった事が無い。だからどうしよ?


「じゃあ行くぞ! 死ねぇ!!」


 男は俺に向かって自慢の大剣を軽々と振り下ろすが、俺は咄嗟に横へ飛び込む様に避ける。


「待て待て待て! マジで躊躇い無えなオイ!」

「まさか対人戦が初か……? ハッハッハ! これは好都合。ならそのまま逃げ回ってろ! 体力が切れた所で叩き潰してやる」


 なに?体力だと?良い事思い付いたぜぇ……。確かに体格と言い俺と男の体力の差は歴然だが、恐らくだがただ一つだけ上回る物が有る。それは……スタミナだぁ。体力もスタミナも同じだろと思うが俺は違う。


 俺の言うスタミナとは、夜更かしに夜更かしを重ねて究極の不健康体を作った俺は、常に覚醒している!つまり、動く体力には負けるが、起きている体力なら勝てる!フッハッハ!後は最小限の動きで攻撃を避けるのみ。相手は大剣だから容易い事だ……。


 対戦開始から六時間後、観客も流石に飽き始め賭けは対戦終了まで保留する観客がぞろぞろと帰っていく。


 そして待ちに待った対戦相手の欠伸がついに聞こえる。


「ふわぁ〜あ……貴様、そんなにやる気が無いのか。もう良い、さっさと殺してやる」


 うおおお、逃げろおおおお!


 更に三時間後、闘技場の司会者は椅子に座り、ゆったりと観戦している。もはや観客席には誰もいない。


「……貴様、いつまで逃げている……つもりだ。ふぅ……。流石に怠くなってきたぞ。いつまでも避けてんじゃねぇ! 弱虫があっ!!」


 煽っても無駄だもんねー。


 更に更に、六時間後。時間的には既に深夜二時過ぎた頃だと思う。闘技場は昼間とは大違いの静かさ。司会者も監視カメラを仕掛けから遂にその場で寝てしまった。


「くっ……そんな馬鹿な……! 眠い、眠過ぎる……! くそっ、こんなに長引くなら対戦を放棄すれば良かった!」

「あれあれ〜? もしかしてもう限界ですかぁ〜? こんな長期戦初めてなんすかねぇ〜?」

「ぐっ……! このやろおおおぉ!!」


 そして時は朝が来た。大剣を振り回してばかりの男の体力は既に限界を超えており、大剣を地面に突き立てながら膝を付いている。


「はぁっ……はぁっ……! ま、まだだ……。俺は、お前を、必ず殺す……!」

「ふぅ……流石に俺も飽きて来たな。大丈夫だ骨は拾ってやる。お前が完全に眠った時に息の根を留めてやるよ」

「この……クズ野郎があああああ!!!」


 それからおよそ三十分。怒りに任せて大剣を大振りに振り回す男は遂に体力の限界の限界が来た。最後の大振りを俺に避けられた瞬間、倒れ込む様に地面に伏せた。


「まだ……俺、様は……」

「お疲れ様でええぇす!! せいっ!」


 俺は超簡単に倒れた男の後頭部を剣で突き刺した。これは百パーセント死亡である。体力の限界の後に致命傷を与えられるなんて、生きているのが不思議だと思う。


 そしてついに対戦が終わった事に誰もいない闘技場で司会者は叫ぶ。


「終わったああああああ!!!! 遂に終わったぁ!! まさか一日も掛けて行われる対戦は今までにあったか!? いや無い! 勝者は、斎藤修平!! 相手の体力を削りに削り、倒れ伏せた所でトドメを刺した。何というクズっぷり! はぁ……もう帰って良いよね?」

「あ、お疲れ様でーす!」


 そうすると冒険者登録カードが優しく一瞬光る。闘技場の戦いを終えた事で経験値は配布されたようだ。


──────────────────


レベル:55

体力:375

攻撃力:206

防御力:168

魔力:0

俊敏力:115

運力:57


習得スキル:

・レアドロップ5.5%(自動)

・ドロップブースト125%(自動)


所持金:55100ゴルド


所持物:

・スライムの体液×200

・ウルフの爪×650

・フィアスウルフの鋭爪×300


──────────────────


 おおっと……多分こりゃ長期戦の賜物だな……。配布経験値以上の経験値を貰っちまったぜ。さて、レイクの所に戻るか。多分ギルドにいるでしょ。


 俺はギルドに戻り、レイクを探すとすぐに見つけた。レイクは俺を見つけると呆れていた。


「何処に行ってたんだよ」

「闘技場でちょっとレベル上げを」

「一日も掛かったのか?」

「作戦的にな。まぁ、良いだろ。レベルも上がったし」

「そうか」


 さて、次行くはゴブリン剛魔石だぁ! ゴブリン狩りの始まりだぜぇ。


 俺はまた図書館から貰った周辺の広域地図を見ながら、街から真西にあると言う荒野地帯に向かった。街周辺の平原地帯と荒野地帯の境目ははっきりと分かれており、平原から荒野に入った瞬間、大地は枯れ痩せ、空気も淀み、ほぼ砂漠に近いと言える環境だった。


「うわぁ……この環境は人間の俺でもキツいぜ。あんまり長期の潜り込みは望めないか?」

「ははっ……。そもそも危険地域に長期潜り込む人なんてベテラン冒険者でもしない事だよ」


 そう良いながら俺は、早くもゴブリンの拠点を発見した。ゲームで見た事があるゴブリンは、緑色で薄汚い身体をしているが、ここのゴブリンは体が赤い。まぁ、それも普通よりは強いという証なんだろうなぁ。


「じゃあレイク! 倒したら空かさず魔石を抜き取れ!」

「おう!」

「ニンゲン! コロス!」


 ゴブリンの体格は平均の人間の半分以下。つまり子供と戦っている気分になる。ただ凶暴性は高く、人間を見かけたら躊躇いなく殺しに掛かって来る。さすが弱小モンスター代表だよな。


 だがレベルは上げたし、上げる前よりは戦い易くなっている筈だ。何時もと同じ様に狩りまくる。


 それから約八時間が経ち、陽はすっかり昼模様。ゴブリンを倒しては、心臓部分を剣で抉り出し魔石を獲得する。連続的な長期籠もり素材集めをしていたせいかレイクとの連携が取れてきた。


「ふぅ……もうかなり狩ったんじゃない? 斎藤君」

「ほう? さてはお前慣れてきたな?」

「んー、体力の使い方は激しいし、連続的過ぎて疲れも溜まってる。でも、確かに段々この疲れが体に馴染んでる……?」


 それから更に所持物をみる前に念の為に後二時間狩り続けた。この気持ちが分かる奴がいるか分からねぇが、ゲームで素材集めしている時、少しやった後に所持物を確認したら『まだ足りない』と確認した時の面倒さ。だから俺は十分だろうと思えるまで、狩り続けるのだ。


 さて、そろそろ冒険者登録カードを見ますかねぇ?俺はふとカードを見て一つ気づいた事があった。いや、多分気付かなかったんだと思う。


──────────────────


レベル:80

体力:500

攻撃力:331

防御力:243

魔力:0

俊敏力:165

運力:139


習得スキル:

・レアドロップ8%(自動)

・ドロップブースト250%(自動)


所持金:85100ゴルド


所持物:

・スライムの体液×200

・ウルフの爪×650

・フィアスウルフの鋭爪×300

・ゴブリンの魔石×500

・ゴブリンの剛魔石×100


──────────────────


 このスキルの中にあるドロップブーストだ。うーん。俺がみる異世界転生って良く透明のウィンドウが目の前に開くんだけどなぁ……これ全部カードで確認だから、んな事出来ねえんだよなぁ。分からない物があるなら調べるべし!!いつもの図書館にいくぜえええ!

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