第6話 お婆さんの要求 ①

 俺はレイクと宿に泊まり、月明かりが照らされる寝室で寝る前に冒険者登録カードを見て気付いた事があった。


 それは、習得スキルの中にある『レアドロップ』の確率が1レベル上がる度に0.1パーセントずつ上昇している事である。だから今はレベル25で、確率は2.5パーセント。つまり、この確率をとりあえず10パーセントまで上げるには少なくとも100レベルが必要だという事。


 俺はただレベル上げに関しては興味が無いのでレベル上げは素材集めのついでだと思っていたが、レアドロップ率2.5パーセントではスライムの魔石が当たらないのも納得する。なので、スライムの魔石はひとまず後回しにしよう。


 そして異世界転生した事によって、今までゲームでやっていた事を実際に身体を動かしてやっている事に、ステータスとの関係をだんだんと理解していた。


 単純に考えて、攻撃力は筋力の増強に該当。防御力は、相手の攻撃力に対してダメージの軽減。俊敏力は、相手の攻撃に対する反応速度。運は……多分リアルラックの変動かな?後一つ、魔力は今現在、レベルが上がっても全然上がらないので不明だ。


 要はステータスと身体能力は同じって事だ!!


 という訳でもう寝よう。


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 翌日の早朝、俺はレイクを叩き起こし、昨日会ったお婆さんの家に行こうと提案する。


「おい起きろ! レイク! 今日はお婆さんの家に行くぜ!!」

「んー……ん? ふぁ〜あ……朝早いね斎藤君」


 まだ外は白い朝霧が出ており、窓からでは外の景色も殆ど見えない。だがこれが俺の日常である。早寝早起きではなく、『遅寝早起き』である。一分一秒たりとも無駄には出来ない。身体の活動が可能な時間で有れば、その全ての時間を目的に費やす。


「ったりめぇだ! さ、行こうぜ!」


 俺はレイクを起こし、宿を出て街の外れまで行くと如何にもそれらしき建物が見えた。まるで瓦礫を丁度良いように積み上げ組み立てて、家とは呼べず煙突から緑色の煙を上げる怪しい建物だった。


「うわぁ……お婆さんの家ってまさか此処の事だったの?」

「え? 知ってるの?」

「知ってるも何も此処じゃあ有名だよ。悪い意味でね」


 俺はそれを聞いて、何ともあのお婆さんは不憫なんだろうかと思った。ただモンスターの素材を集めて、強烈な薬の開発に日々研究しているだけだと言うのに。しかもアイテムコレクターの俺を快く買ってくれた。


 そんな心優しきお婆さんが、噂と偏見だけで悪く言われるなんて……少なくとも同じ心を持つ者同士として許せん。


 俺は決める。世界全てのアイテムをコレクションするメインとサブ目標を。俺はこれからお婆さんの要求にとことん答え、劇薬と言わんばかりの薬を宣伝し、売付け、みんなに良い人だと思わせる事を目標としよう!


「マジかよ……なら尚更だなぁ!?」

「え、何が?」


 そういう訳で俺は、昨日お婆さんに言われた要求とは何なのか、ニッコリ笑顔で建物の扉を開き中へ入る。


 中へ入ると最初に驚いたのは、内装の衝撃ではなく、鼻をひん曲げるかの様な激臭だった。吐き気を催す程では無いが、あまり吸い込み過ぎると感覚の麻痺と目眩を起こしそうになる。恐らく、回復薬以外に毒薬も開発しているせいだろう。


 そう建物の中を眺めていると、奥から昨日出会ったお婆さんが出て来た。


「ヒッヒッヒ……良く来たのぉ! まさか本当に来るとは思わなかった」

「おうよ! 来てやったぜぇ……それで? 探し物ってなんなんだ? 街の外で手に入る物なら幾らでも探し回ってやるぜ」

「ヒッヒッヒ……そう急かすな。まだお主もレベルやステータスが低いかも知れんからなぁ……いきなり高難易度な探し物は無理じゃろうて、割と近くで手に入る物をリストアップしておいたわい。と言っても前から欲しかった物じゃからのぉ。物好きな冒険者がいつか持ってくるのを待っていたリストでもある」


 そういうとお婆さんは、カウンター越しで俺の目の前の机に紙が束になったリストをどっさりと置く。探し物リストというより、『今現在必要な物』レベルの量である。


 まぁ、いちいち俺がお婆さんに聞きに行くのも面倒だと思ってたし丁度良いとは思っていたが……ざっと数えて数十個のアイテムが箇条書きされた紙が百枚以上はある。凄まじいと思うと同時に、とてつも無くやり甲斐のある量だと俺は思った。


 これをゲームで例えるとするなら、マンスリークエストだ。一月掛ける事を想定して作られたクエストの事を言う。


「おぉ……凄い量だ。うっしゃあ! やってやるぜぇ!!」

「ヒッヒッヒ! 流石にいっぺんには持ってくるなよ? そのリストの一枚分が集まったら一旦持ってくると言い、その分の報酬を用意してあるからのぉ」


 そんな様子を横から見るレイクの表情はお婆さんの無茶振りと言える程の要求と、異常にやる気を出す俺に何とも言えない表情だった。


 その表情は、俺にも何となく分かる。だってゲームでも、アイテムを数百個の単位で取引していた俺は、フレンドにも飽きられていたからな。十分分かる。


「よしレイク! 行くぞ!」

「斎藤君、マジで行くの?」

「行かないでそれ以外に何する事あるってんだ?」

「ええええ……冒険者が全員アイテムコレクターって訳じゃ無いからね!?」


 さて、とりあえずリストを見ながらこれから探す物を決めよう。書いてある物は……。


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・フィアスウルフの鋭爪えいそう

・ゴブリンの魔石

・アンデットマンの霊魂

・カーススケルトンの磨かれた魔剣

・トランススライムの体液


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 とりあえず集める範囲としては此処辺りを区切りとするか。にしても、どれもゲームにありそうな名前だな。此処は確かに異世界ではあるが、ゲームの世界と言っても強ち間違いでは無いのかも?


 という事は探す前にアイテム図鑑で調べよう。上から順番に……。



『フィアスウルフの鋭爪』

 地域と気候の制限を持たず、割と何処にでも存在するウルフの巣に生息するリーダーウルフから取れる爪。部下より凶暴性が高く、自慢の爪と牙の攻撃には注意しなくてはならない。


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『ゴブリンの剛魔石』

 荒野地域を拠点とする事が多いゴブリンの体内に生成する魔石。その他地域のゴブリンには、生息環境的に生成されにくく、一部地域でしか取れない為希少価値がそこそこ高い。


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『アンデットマンの霊魂』

 夜間の墓場に現れるアンデットマンが宿す魂。アンデットマンは夜という条件が有れば街以外には何処でも出現するが、霊魂の持つ種類は墓場に限られている。希少価値は高い。


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『カーススケルトンの磨かれた魔剣』

 夜間の平原地帯に出現するカーススケルトンの魔剣。ただスケルトンが持つ剣は普通の兵士の剣の場合が多く、殆どが朽ちており、魔剣を見つけたとしても新品同様の物はかなり貴重。


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『トランススライムの体液』

 平原地帯の夜間に出現するトランススライムの体液。トランススライム自体は透明灰色で非常に見つけ辛く、魔石を体内に生成しない珍しい種類。体液も倒した直後溶けて見えなくなる為、希少と言うより、見逃しやすい。


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 ふむふむ。どれも面倒、レア、時間制限、地域制限と来たか。下から二つ目のカーススケルトンの磨かれた魔剣はヤバそうだな。とりあえずそんなレアなアイテムを狙うのも良いが、一つ一つこなしていこう。

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