第2話 アイテムコレクター ①
俺は商店をクビになった。まるで手枷が外れた様なスッキリした気分だ。だって……いきなり目覚めたら「働け!」だぜ?あり得ねえわ。
さて!俺の新生ゲームライフはこれからだ!まずは、この世界がどんな場所なのか把握しておきたいな。それには図鑑や書物が欲しい。そしてそれには図書館が何処かにある筈だ。
いや待てよ?此処は俺の欲望の世界。図書館くらい念じれば出てくる筈だぁ!
「図書館ああああん! 出て来おおおい!!」
何故出て来ないいいいいい!!??街の中で突然叫んだからめっちゃ冷たい目で見られるんですけどおおおぉ??
ったくしゃあねえなぁ……。自分の足で探せってか?やってやろうじゃねぇか!
俺は、街を歩く人々に本が見れる場所は無いかと声を掛け、目的地を探す。そうして、三十分程で図書館を見つけた。
図書館の中に入ると、全体的に円柱の形をしており、その中央が受付カウンター。それを三百六十度囲む様に、ずらりと天井高く、一層一層螺旋状に階段が置かれて、本棚が長い廊下の様に並んでいた。
ざっと一本の廊下が五十メートルと考えて、それがぐるりと円柱の図書館に何本も並び、百を超える階層のあるタワー型の図書館。まぁ……十万冊は余裕で超えるな。
こんなの目的の本が見つかる訳が無い。正直に受付で聞こう。
「あのー、すみません。此処に図鑑ってあります?」
受付は七〜八十代くらいか、良い年したお爺さんがやっていた。目は細めて、かなり度のキツそうな分厚い眼鏡をしているが、背筋はピンとしており、そこまで老けている様子は無い。
「はいはい、どの様な本をお探しですかな?」
「アイテム図鑑だ」
「アイテム……図鑑……? それは、どのような物なのでしょうか?」
これはいよいよ此処は俺の望んだ世界では無い事が明確化してきた。何故かって、俺が望んだ世界なら、ゲーム知識くらいNPCが持ってても可笑しくねぇだろおおぉ?!
「えーと……兎に角! この世界の色んな物の詳しい事が書かれている本!」
「ほう……要は、薬草や鉱物、魔物の魔石が載っている本ですね? それなら、一つには纏められていませんが今持って来させますね」
『持って来させる』?いや、いくら何でもこの超巨大図書館に数百のスタッフが居たとしても管理しきれねぇだろ……。
そういうと、お爺さんはカウンター奥にあるPCらしきキーボードを慣れた手付きで操作すると、突然図書館に地震が起きたのか、大きく縦に揺れ始める。
すると、円柱型の図書館は各階層と全廊下が、金庫のダイヤルの様に分離、回転し、お爺さんのカウンターのすぐ側に一つの本棚が突出する。すると本棚の側面が引き出しの様に突き出し、俺が欲しいと言っていたであろう本がお爺さんの前に置かれる。
圧倒的スーパーテクノロジー!!最早、ロマンだろこれ!!??えぇっ!?
「恐らくお客様がお探しの本は此方かと。薬草種、鉱物種、魔石種、部位種等々……、様々なジャンルに分けております」
お爺さんは俺の前に多数の部類に分かれた本と言って、どっさりと十冊以上になる一冊一冊分厚い本を置く。
なんてこった……こんな大量の本読み切れるかなぁ……。俺は少し本の内容に興味が湧き、お爺さんのカウンターの上で一冊の本を適当のページから開き中を見る。
俺はその本の内容に、身の毛がよだつ程に震え上がった。それはあまりの恐ろしさに足が竦み、ただし目線は背ける事はできない。何故か俺はその内容をじーっと見つめてしまう。
なんて事だ……そんな事があり得るのか?この世界に来て今初めて知った恐るべき事実。それは……。
「文字が一つも読め無ええええええ!!??」
俺が突然叫ぶ物だからお爺さんが驚き、若干飛び跳ねる様子を本から視線を外らせない俺は感じた。
「おぉお客様、どうかなさいましたか?」
「爺さん! もう一つ頼みがある! 文字の読み方を教えてくれぇ!!」
本の内容は正に暗号だった。見た事のない文字で、ネットで調べたら出て来るその特定の地域で使われる字体の言語よりも見た事が無い字体。ヒエログリフとも呼び難い。まるでロシア語の筆記体と、暗号記号が混ざった様な字体。
幾ら目を凝らして頭をフル回転させても、アルファベットに照らし合わせる事は難しく、何せ筆記体だから読み方が分かっても、解読に骨が折れそうだ。
俺は爺さんに、どうせ周りの人達は当たり前なんだろうけど、自分だけ読めない恥ずかしさを捨て、必死に読み方を教えて欲しいと頼み込む。
するとお爺さんは、それはそれはとても暖かい表情で承諾してくれた。
「畏まりました。では今、文字の読み方を綴る本を持ってきますので少々お待ち下さい」
という事で、俺はお爺さんに文字の読み書きを丸一日、図書館に泊まり込みで全力学び、頭に叩き込んだ。
何気にお爺さんの教え方も慣れた様で、とても分かりやすく、直ぐに俺の頭にインプットされた。ただ、たった1日で頭に叩き込めた理由はもう一つある。
俺の驚異的な集中力だぁ……。
俺はゲーマーだ。ましてや二十四時間ぶっ通しでゲームなんざ日常だった。例え翌日が学校の日だろうが、眠いという状態より、長時間のゲームにより脳は常に覚醒。
全く今考えても不健康極まりない。百パーセント早死にするタイプである。
ただし決してそんな生活は楽な訳が無い。俺の最も嫌いな物は異常な『頭痛』だ。
頭がかち割れる程の痛み、こればかりは薬を飲んで休まないと本当の意味で死にそうになる。
「ぐああああッ!! 頭が痛ええよおお……」
バフ○リン!バフ○リンは何処だああああ!!
世界の文字を1日で叩き込めたは良い物、余りの情報量に脳の処理が追いつかないっ!
俺が余りの痛みで叫ぶと、図書館のお爺さんは慌てて外へ走り去って行く。あぁ、俺、死ぬのかな……二度目の死は流石に嫌だねぇ……。
そう必死に頭の痛みに耐えていると、図書館のお爺さんと白衣を着た若いお兄さんが走って入ってくる。
あぁ、救世主よ……!俺は意識が朦朧とする中、白衣の男に何かフラスコに入った薬を飲まされる。
すると、頭の痛みはすーっと嘘の様に消え去る。完全なる全快。
「一体何が……?」
「全く、びっくりさせないでくれ。図書館のお爺さんが慌てて「お客さんが倒れた!」なんて言うから、症状を聞く限りは単なる頭痛。頑張り過ぎだ」
あ、ありがてえ……それよりも気になるのは、その超即効性の薬……。欲しい……!緊急用として使えるのも然りだが、アイテムコレクターとして手に入れざるを得ない!!
俺は感謝を言葉で述べる前に、興味本位で医者であろう目の前の白衣の男に薬の入手方法を尋ねる。
「それ! どうやって作るの!? めっちゃ欲しい!! そしてありがとう!!」
「え? あぁ、これ? 残念ながらこれは秘密だ。君、超即効性に気付いたから欲しいと思ったんだろう? これは僕が二十年も掛けて研究、開発した薬だからねぇ……そう簡単には教えられないな」
白衣の男は俺の質問に怪しげな笑みを浮かばせながら、すこし「君には作れない」なんて言ってそうな煽りを込めた表情をしながら答える。
そりゃそうか。
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