第1話 商人から始まる異世界転生

 俺の名前は斎藤修平。超ゲーム好きで、レアアイテムコレクターである。


 しかし、俺は死んだ。トラックに潰されて死んだ。まだまだやり残した事は沢山有るのに。最悪だ……最悪だ!!


「うわああああ!! ちくしょおおおお!! ゲームのデータが吹き飛んだ事より辛えええええ!!」


 そう俺はベッドにうずくまりながら叫ぶと、突然部屋のドアが蹴破れ、顎髭をモッサリと生やした中年小太りのおっさんが現れた。


「うるせぇっ!! 新人!! 何寝坊してんだ! さっさと仕事行くぞ!」


 言いたい事を言ってからバタン! とドアを閉めておっさんは去って行った。


 俺は唖然としながら周囲の状況を確かめる。俺は今見知らぬ白いシーツの引かれた硬いベッドに座っており、床と壁は木造。天井は無くそのまま屋根で塞がっており、一見は木造のログハウス。


 服装を見るとボロい緑無地のTシャツと黄土色のダボダボのズボン。茶色のスニーカー。全く持って普通である。強いて言えばトラックに轢かれる前はこんな服装では無かったが……。


 ベッドの横には大きめの登山用リュックサックが置かれており、中身は……空っぽだ。


 そして俺は……生きているのか? あの死ぬ直前からすると、病院に運ばれても間もなく死ぬ筈だが、記憶も鮮明で身体の痛みも無い。一体何がどうなってるんだ!?


 確かさっきおっさんは仕事とか言っていたな。まぁ良い。状況を掴む為でも外に出るか。


 俺が部屋の外に出て、おっさんの所まで行くと、其処はどう見ても商店だった。俺は商人なのか?


「おせぇよ新人! 今日やる事は分かってるよな!?」


「いや、知らん」


「はぁっ!? 知らん。じゃねーだろうがぁ!! もう良い! お前は外行って薬草でも拾ってこい! 籠は裏口から出た所にある倉庫に有るから適当に使え!」


「あ、あぁ……」


 薬草を拾って来いだと? まるでゲームのチュートリアルだな! そうだ、分かったぞ。此処は、死後の世界なんだ! 俺のゲームをやりたいという願望が作り出した世界!!ハッハッハ! 死んでも尚ゲームが出来るとは……やってやろうじゃねぇか!


 さて、此処が本当に俺の欲望が具現化した世界なら此処は『ゲームの世界』になる筈だ……つまり、アイテムには大体がキラキラとしたエフェクトが掛かるはずだから直ぐに見つけられる!


 街の外へ出て十分後……。


 見つからねええええ! 何故だ? 薬草らしい薬草が一つも見つからない! キラキラエフェクトも無い!? もういい!! 適当に持ってってやる!


 俺は恐らくこれはゲームのバグだろうと思った。欲望にバグなどあり得ない気もするが、実際俺の予想が全く違っている。意味不明だ……。だから野草の知識なんて無い俺は適当に其処らへんにある雑草を持っていく事にした。


 商店へ帰る……。


「てめぇ……商人舐めてんのか? 籠いっぱいに草が入ってるから期待したってのに……一つも薬草が無いんだが……?」


「知らねーよ! 野草の知識なんざある訳ねぇーだろ!」


「てめぇ……昨日と言ってる事違えじゃねぇかよおい。薬剤師の資格持ってたんじゃねぇのかよ!? クビだ」


 という訳で俺は商人をクビになった。全く、意味分からねえ事ばっかり言いやがって……。

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