おもいでノスタルジック

あまかぜ

プロローグ

 懐かしさを感じる場面とはどんなものだろうか。

 生まれ育った島に向かうフェリーに乗りながらそんなことをふと思う。ただの移動手段でしかないのに俺古垣 大樹はこの景色に懐かしさを感じているのだ。


 この小さな島には高校はないので、俺は香川県の寮のある高校に通っている。割とすぐ帰れるのでそのうち帰ればいいかと先延ばしにしていたら、1年以上たっていた。


 母さんからよく「いつ帰ってくるんだ」と電話で聞かれていたが、面倒だったので言葉を濁していたら、しびれを切らした母さんが学校に連絡を入れたので、先生から怒られてこの夏休みを利用して帰ることを約束させられた。帰ったら母さんにも怒られることは想像できるので憂鬱だった。


 そんなことを考えていると到着15分前を知らせるアナウンスが流れるとともに、島が見えてきた。


 島に着くと母さんが待っていた。フェリーの待合所でアイスを食べながら、島のおばあさんと談笑していた。


「随分とお話が弾んでいるようで」となんとなく皮肉めかして言うと、


「久しぶりに帰ってきて第一声がそれかー‼」と母さんはもう片方の手に持っていたアイスを開けて、笑いながら口に突っ込んできた。


 ひとしきり笑った後「ただいま」というと、懐かしい声音で「おかえり」と返ってきた。そんなつまらないことに懐かしさを感じながら家に向かって歩き始めた。


あの時のアイスはかなり気がする。





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おもいでノスタルジック あまかぜ @amakaze777

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