第8話
接客だけが仕事だったわけではない。
やらなくてはならないことはいくつかあった。
たとえば、ライブの時に客に配る《シェイカー》作り。
ライブが終わると同時に、食器などといっしょに回収するのだが、ほとんどが凹んでいて再利用はできなかった。
ひどいものになると完全につぶれていたり、引き裂かれて中のコメが床に撒き散れていることもある。
そんなわけで、毎日いくつかを作る必要があった。
店ではもっぱらドラフトビールか瓶詰めのハートランドを使っていたので、シェイカーに使う缶ビールは、もっぱら俺たちの自家消費だった。
酒屋が持ってくる商品のうち、缶ビール──それも何故だかバドワイザーやハイネケンではなくサッポロだった──を、休憩時間なんかに飲んで、洗った缶の飲み口を逆さまにし、乾かしておく。
この乾燥がなかなか大事なポイントなのである。
その飲み口から、生米をひとつかみ入れる。
この量も大事なポイントで、多くても少なくてもいけない。
俺はこういう馬鹿馬鹿しい作業が嫌いではなかったし、むしろ得意だった。
ゴルゴはこの作業には冷淡で、俺がせっせと作業するのをニヤニヤしながら見ているばかり。
「俺はそのかわり、客が潰しちまう前に回収してくるんだよ」などと言っていた。
不器用なのはチャーリーで、まだ中が濡れた缶に米をやたらとたくさん入れるので、やつが作ったシェイカーはいい音がしなかった。
不器用と言えば、チャーリーの接客はなっちゃいなかった。
さっとお客に近づき、注文を聴き取って素早く戻ってくるということが出来ず、はたから見ていると、何か粗相を詫び続けているようだった。
ゴルゴはその有様がひどく気になったらしく、チャーリーがお客にぺこぺこしているのを見るといつも、俺を肘で軽くつついた。
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