第7話

 引き継ぎが済むまでは抜けることが許されなかったので、俺は相変わらず早番で通った。

 開店が十八時なので、十七時半には店についた。

 カズはさらに早い時刻から入っているようだったが、ちょっと困ったのはゴルゴだった。

 ある日のこと俺が十七時半に店に着くと、ゴルゴはすでに床の掃除をしていた。

 厨房に入ってすぐのところにあるタイムカードをこっそり見てみると、俺より五分早く入店しているのが判った。

 翌日、俺は十七時二十分に店に着いた。

 カズはいたが、ゴルゴはまだだった。

 しかしその翌日、ゴルゴは十七時十五分に店に入っていた。

 次の日、俺はゴルゴに負けないように早く着いた。

 お互いそんなことを繰り返すうち、ついに店の前で鉢合わせした。

 十七時ちょっと前。

 カズもまだ来ておらず、店は閉まっていた。

 俺とゴルゴは顔を見合わせて笑った。

 クスクス笑いがやがて大笑いになり、涙が出た。

 いつまで笑っても、二人とも笑い止まず、昇ってきたエレベーターが止まったのにも気付かなかった。

 カズだった。

「おまえらなに馬鹿笑いしとんねん」

 すぐに事情を飲み込んだカズは、店を開けると、キーホルダーからそのカギを外してゴルゴに手渡し、合い鍵を二つ作ってくるように命じた。

「おまえらのヤル気はもう十分判ったから、つまらんことで競争すなや」

 と言ったカズも、まんざらではなさそうに笑っていた。

 とはいえ、チャーリーが遅刻をしていたわけではない。

 やつもまた、十七時半を回る頃、律儀に現れた。

 俺たちは、誰が損で誰が得ということも意識せず、黙々と掃除を済ませ、テーブルや椅子を整えて客を待った。

 口開けの客は驚いただろう。

 なにせ三人の若者が口を揃えて「いらっしゃいませ〜」と声をあげ、我先にと近づいてくるのだから。

 やがて、リーダーの俺がルールを作った。

 名付けて「カジキマグロ・トローリング法」。

 チャーリー、ゴルゴ、俺の順でローテーションを作り、来た客を順番に受け持つという方法だ。

 このルールは有効だった。

 自分の客を逃さない限り、厨房で一服するのも奧のボックスでだらりとするのも自由だったからだ。

 こうしたことについて、やるべきことさえこなしていれば、カズは寛容だった。

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