第6話

 すぐに気付いたのは、早番は俺のライフサイクルに合わないということだった。

 もう何日も続けて、夜の授業に出席していなかった。

 むしろ二十三時からの遅番か、せめて入店の時刻を遅くしてもらいたいと考え、カズに言った。

 カズはちょっと難しい顔をし、

「まあ、募集はまだ続けてるし、そのうち早番も見つかるやろ。そいつに俺の教えたことを引き継いだら、何時に来てもええわ。それまでこらえてえな」と答えた。

 アルバイト情報誌は、職を求めるものにとっても求人する側にとっても、発売されてからすぐが勝負だ。

 俺は次の発刊日を待った。

 思い通りに、応募があった。

 五人が応募してきて、俺もカズのそばで面接に付き合った。

 採用されたのは二人だ。

 一人は國學院の学生で山中くん。

 小柄で、いつも目をくるくると動かしているかわいらしい男だ。

 もう一人は、これまで銀座のクラブで黒服をしていたというふれこみの立石くん。

 背が高く、きりりとした顔をしている。

 あとの三人は、俺の目から見てもスカだった。

 採用された二人は翌日から店に出た。

 山中くんは早番、立石くんは一晩中の通しということになった。

「あれやな、わかりやすいあだ名でもつけよか」と、カズが言いだし、俺たち三人に源氏名をつけた。

 俺はハリー。

 髪の毛を短く刈り、デップでツンツンに立てていてハリネズミのようだったからだ。

 山中くんはチャーリー。

 そのぎくしゃくした動きがどことなく映画の中のチャーリー・チャップリンに似ていたからだ。

 立石くんはゴルゴ。

 きっちりとアイロンを当ててオールバックにした髪と、レザーの上下に黒シャツを着ていた印象からだ。

 まだ数週間も経っていなかった俺だったにも関わらず、二人の入店と同時に《リーダー》とされ、同時に時給が五十円上がった。

「ほな、わからんことはなんでも、リーダーのハリーに聞いてな。ハリーがわからんことは、ハリーが俺に聞くように」

 カズは俺たちを見回す。

 チャーリーはこれまで時給四百五十円で喫茶店のアルバイトをしていたとかで、基本的な動きは出来たが、良くも悪くも水商売っぽさがなかった。

 ひきかえゴルゴには、いかにも夜の男というムードがあったし、仕事のこともよく判っていた。

 だが二人とも、中身には誠実さがうかがえた。

 俺たち三人はすぐにうち解けた。

「これだけは言っておく。おまえら、仲良しはええけど、なれ合いはいかんで。ハリーも、仕事次第では、リーダーやなくなるかもしれんからな」

 そう言うカズは、ゴルゴの能力を早くも見抜いていた気がする。

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