第4話
翌日も俺は《万華鏡》へ行った。
予告通り芋田は来なかった。
カズは特に驚いたふうもなく、
「なんやそんな気がしてたんや。よう動けとらんかったからな。彼の昨日の分の時給、キミにつけといたるわ」と言った。
その時給だが、七百円からのスタートだった。
「働き次第ではなんぼでも上がるで」とのことだった。
また、二十三時を過ぎると遅番となり、そこからは時給が八百円となるらしい。
遅番は基本的に午前四時まで。
つまり十八時に入って午前四時まで働けば、一晩で七千五百円の実入りになる計算だ。
皮算用はしたものの、四時に六本木を解放されても部屋に戻るすべがない。
多少興味もあったし体力も残っていたが、早番だけを数日勤めた。
カズとは別に《店長》という男がいた。
カズに劣らぬ長身で、銀縁メガネをかけた馬面だ。
店長は近くにある系列の喫茶店の店長も兼ねており、そちらの店が一段落してから入るので、やってくるのは二十一時過ぎだった。
その他、バンドマン以外の常駐メンバーとしては、厨房に《チーフ》がいた。
店内に面したカウンターで飲み物を作るのはもっぱらカズの仕事だが、料理の注文が入るとオーダーを《チーフ》に通す。
チーフはしわっぽい顔の熟年男性だった。
不思議だったのは、俺以外にアルバイトはいなかったし、それ以前にもいたとは思われないことだった。
しかしそのあたりの事情を聞くのには、まだ早すぎるような気がした。
俺はカズが順序よく教えてくれることがらをひとつずつ覚えていった。
客が来店すると、元気よく声をかけながらメニューを持って近づく。
飲み物のオーダーを取るとカウンターにそれを伝えに戻り、トレンチ(大きな銀盆)に載せた飲み物を届けながら改めてフードの注文を聞き、今度はそれを厨房に伝える。
基本的には、カウンターの脇、厨房への入口そばで直立不動。
客の様子を見ながら、灰皿を取り替えに巡る。
飲み物が切れかかっている客がいればさりげなくおかわりを勧め、キープしたボトルを飲っている客には、氷と水に目を光らせる。
そんなことの繰り返しだが、ライブの時間が近づくと、ちょっと仕事が増えることになる。
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