第十話・天空のストライカー天女
数日後、那美や千穂たちが通う【逆鉾学園】女子サッカー部グランド──黒髪を背中で束ねた
ドリブル突破で数人のDFを次々とかわして、ゴールに向かう千穂が、一瞬の隙をついてシュートを決める。
千穂のシュートでゴールネットが揺れると、見学していた女子生徒たちからの憧れに近い声援がとんだ。
練習試合が終わり、グランドの木陰でスポーツドリンクを飲んでいる千穂に、近づいてきた那美が話しかける。
「聞いたよ、プロの女子サッカーチームからも注目されているエースストライカーだって……隼のように相手からボールを奪いゴールを決める『天空の隼』八咫千穂」
スポーツタオルで汗を拭きながら、千穂は那美を訝る目で見る。
「なんの用」
「なんて言うか……イヴって女の子が、千穂と仲良くしろって」
「あぁ、あのキャンディー女ね──アポクリファ機構の」
「やっぱりイヴのコト、知っていたの?」
「当然、アポクリファ機構の断って人から聞いた話しだと、ワン・オリジンセフィロトはあたしを含めて三人いるらしい……会ったコトはないけれど。仲良くしろと言われても馴れ合うつもりはないから」
那美が、千穂の目をジッと見ながら言った。
「仲良くなるために、イヴが千穂の家に遊びに行けってさ……行かないと、あたしの体からセフィロト細胞を分離させるって」
千穂が飲んでいたスポーツドリンクを勢い良く口から吹き出す。
「ぶはぁ!? な、な、ななななな!!」
動揺する千穂、那美の体からセフィロト細胞が取り除かれれば、それはゼロ・オリジンセフィロトが死ぬのと同等で……ワン・オリジンセフィロトも素体と魂核が同時に消滅する。
もっとも、完全融合している那美の体からセフィロトを排除するコトは、すでに不可能なので。
これは千穂に那美が、家に遊びに行くコトを承諾させるためのイヴの入れ知恵だった。
少し考えてから千穂が、渋々口調で言った。
「アポクリファ機構からは、生活資金援助してもらっている恩もあるから……断れない、わかった家に来てもいいぞ」
「ブースターのミコトも連れていっていい?」
「あぁ、好きにしろ……で、いつ来るんだ?」
「できるだけ早く、できれば今日」
「今日!? 家散らかっているけれどいいのか」
「構わないよ」
同時刻──那美と千穂がいる町近くの小高い丘に、私服姿で高校生に成長した金華と岩斗の姿があった。
ショートパンツ姿の金華は、しゃがむと地面に手を当てて両目を閉じて言った。
「にゃは、感じる……地が怯えている」
地面が微かに微震する。
「アイツが近づいてきている……まだ、地上には出ていないけれど」
「お姉ちゃん」
心配そうな岩斗を安心させるように、金華は少しおどけて笑った。
「にゃは、大丈夫。ブースターの岩斗と一緒なら、お姉ちゃん負けないから。御使いレベルの機神は初めてだけれど、ゼロ・オリジンが化生覚醒してから数体の機紳倒して、実力つけてきたから……にゃは」
千穂の家へと向かう道──先を無言で歩く千穂の後ろから那美とミコトがついていく。
那美がスポーツバックを持った千穂に訊ねる。
「ブースターの玉依姫って子は?」
「この時間、姫は学習塾……ベタベタされなくて丁度いい」
「千穂は、どうやってセフィロトになったの?」
立ち止まった千穂が、那美をギロッと睨みつける。
「あ、別に言いたくなかったらいいから」
再び歩きはじめた、千穂が淡々と語る。
「灰色の曇り空で、落雷注意報が出ていた日……河原で一人でサッカーの練習をしていた、その時に見学していたのが姫だった……雷鳴が鳴って、雨がポツポツ降りはじめ……練習やめて帰ろうとした時に、いきなり姫が『お姉さまぁ』と叫んで抱きついてきた……同時に雷が二人に落ちて……黒焦げになっていたらしい、夢の中で耳がいっぱいある巨人を見て……気がついたら雷雲が去っていて、体がなんともなくてセフィロトになっていた……ついたぞ、ここがあたしの家だ」
千穂の家はアパートだった、階段を上がり『八咫』とプレートがドアについた部屋のドアを開けて千穂が言った。
「かーちゃん、ただいま……お客さん連れてきた」
「えっ?」と、小声で意外そうに呟く那美。振り返った千穂が睨みつける。
「何か」
「いや、ギャップが」
部屋の中から園児から小学生くらいの男の子と女の子数名が、ワラワラと現れた。
「お姉ちゃん、お帰り」
「わぁ、久しぶりのお客さんだ」
奥の部屋から、やつれた感じの千穂に顔立ちが似た、年配女性が出てきて言った。
「あら、新しい学校の千穂のお友だち? こんにちは」
千穂が、そっけない態度で那美に言った。
「家に上がって、適当にくつろいでいて……あたしは夕食の支度しないといけないから、相手はできないけれど」
那美とミコトは千穂の家に上がり込み、エプロンをした千穂が台所に立つ。
なぜか子供に人気があるミコトが、千穂の弟や妹たちのいいオモチャになって遊ばれているのを傍目で眺めている那美に、病弱そうな千穂の母親が話しかけてきた。
「千穂と仲良くしてあげてくださいね……あの子、ああいう性格だから友だち少なくて。根は優しい良い子なんですよ」
「はい」
ミコトへの遊びは、最初は少し遠慮してた弟や妹たちの手加減が緩み、過激さを増す。
数人で馬乗りされたミコトの足に、プロレス技のリバース・インディアン・デスロックが炸裂する。
「ぐわぁ!!! ロープ! ロープ!」
「家の中にプロレスロープなんてないよ、ミコトお兄ちゃん」
台所からエプロン姿の千穂が、空の鍋を持って弟と妹がふざけている部屋に来て言った。
「遊びは終わり、テーブルの上片付けて。ガスコンロ用意して……夕食の準備して」
千穂の言葉にオモチャにしていたミコトを開放して、大人しくなった弟と妹は千穂の手伝いをはじめた。
千穂が、那美に言った。
「夕食、食べていって弟や妹も喜ぶから」
千穂は、ぐったりとしてうつ伏せになったミコトを、怪獣に見立ててオモチャの戦闘機や戦車で攻撃して遊んでいる、弟を見て目を細めて微笑んだ。
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