第九話『奇ハ虫類将軍レディ・ラミア』


 どこに存在しているのか、定かでない【機神天國】──恐獣将軍【マンティコア】は、奇ハ虫類将軍【レディ・ラミア】と地底広場のような場所で、向かい合って立っていた。

 周囲には金属色の光彩を放つ球体胞子のような並木林がある。

 まるで、ロボットアニメにでも登場するような人間型の顔をした、巨大機神の胸部には獅子の顔、両肩は左右に牡牛と熊の頭がついていて、背中には鷲の翼、片腕についているオウムの頭が時々。

「災いだ! 災いだ!」

 と、騒いでいる。


 マンティコアの近くにある金属胞子の上には従者の【マシーン・バンテーラ】がカエルのような姿勢でちょこんと座り、猫科動物のような仕草で毛づくろいのマネをしていた。


 マンティコアの前にいる奇ハ虫類将軍は、巨大なコブラ型の機神で──頭部には虚ろな目をした若い女性の上半身が、まるで動物のハンティングトロフィーのように飾りついている。

 女性の両腕は肘を少し過ぎた辺りで切断され、胴体と同様に生命維持装置が内蔵された飾り板に固定されていた。

 レディ・ラミアの機体には、二の腕に金色の腕輪をはめた。巨大化培養された本物の人間女性の両腕がついている。

 マンティコアが言った。

「奇ハ虫類軍団から陸軍師団に選抜された、地の機神に機神大神さまから出撃指示が出た」

 レディ・ラミアは人間の腕を組んで微笑む。

「人間どもが我が軍団の機神に潰される光景を、見れるのが楽しみね」

「その人間の腕は使い勝手がいいのか? 機械アームの方が強靭で良いと思うのだが?」

「軟弱で脆いけれど、これはこれで味がある……人間だって古いモノを愛でるでしょう、アレと似た感覚よ……もっとも機神の場合は」

 ラミアは頭部についている、帆船先のフィギュアのような人間の女性を指差す。

「この巨大培養した腕は、この人間の腕……破損したら、捕まえて冷凍ストックしてある別の人間の腕と交換する」

 多くの機神たちにとって人間はモノでしかない。

 その時──地中から金属の球根のような物体が現れ、開いた中から小学生くらいの背丈で、種子のような黒目、頭頂にい花が咲いている。

 緑色をした宇宙人型機神、妖花将軍【ガルラウネ】が現れた。

 窄んだ〔すぼんだ〕口の先にある小さな花をモグモグと動かしながら、妖花将軍が言った。

「もうすグ、第二形態変化ガはじまル……マンティコアに、最初二変わッた姿ヲ見せたイ」

 ガルラウネに訊ねる、恐獣将軍。

「どんな姿になるつもりだ?」

「こノ、人間の姿をスキャンコピーしタ」

 ガルラウネの目から発せられた光りが、空中に長方形の映像を映し出す。

 そこには、枝葉の蔭から隠し撮りしているような構図で、ライトグリーン色のウェディングドレスの衣裳合わせをしている

喜びに満ちた若い女性の姿が映し出されていた。

「今かラ、あの姿になル」

 ガルラウネの姿がグニュグニュと歪み、ライトグリーンのウェディングドレスを着た女性の姿に変わる。

 妖花将軍【ガルラウネ・ブライド】になった、ブーケを持った第二形態ガルラウネがマンティコアに質問する。

「どう……この、姿?」

「どうと聞かれても答えようがない……スキャンコピーした人間はどうした?」

 花嫁姿になった機神ガルラウネ・ブライドが、冷たく笑いながら言った。

「始末したぜ、同じ顔は二人もいらない」

 ガルラウネの頭がガシャガシャと、金属のバラ顔に数秒間変わり、また元の人間頭にもどる。

 マンティコアの腕についているオウム頭が騒ぐ。

「災いだ! 災いだ! 大いなる災いだ!」


 イヴが生き返って二日目──那美とミコトが通う学園のクラスに二人の転入生があった。

 一人は長身で背中まで黒髪を伸ばした美少女で、もう一人はトライテールの女の子だった。

 教室に入ってきた、他校制服を着た黒髪生徒の顔を見た那美は思わず。

「あっ!?」

 と、声を出して椅子から立ち上がる。続いてミコトが小声で「空のセフィロトの子」の呟きが聞こえた。

 担任教師から紹介された、黒髪の転入生がホワイトボードにスラスラと自分の名前を書く。

「【八咫千穂】〔やたちほ〕です……制服は前の学校の制服で通します」

 千穂と一緒に教室に入ってきて、傍らに立っていたトライテールの転入生が、千穂に抱きつきながら言った。

「【玉依姫】〔たまよりひめ〕で~す。千穂お姉さまのブースターやっていま~す」

「ち、ちょっと姫。くっつかないでよ!」

 ミコトが、隣席の那美に小声で。

「ブースターだってバレちゃってもいいの? この学園では秘密にしないでも?」

「いいんじゃない、アポクリファ機構が管轄している学園だから」


 その日の放課後──那美とミコトは、千穂に屋上へ呼び出された。

 千穂の腕には、嬉しそうな顔でしがみついている姫がいた。

 那美の顔を厳しい目で見ながら千穂が言った。

「はっきり言うけれど、あなた弱い……機神は全部あたしが倒す、邪魔しないで……覚悟がなかったら、セフィロトに化生覚醒するな」

 千穂の言葉にカチンとくる那美。

「あたしだって好き好んで、セフィロトになったワケじゃないから……不慮の事故でしかたなく」

「覚悟もなくセフィロトになった。はぁ、しかもゼロ・オリジンのセフィロトに? 最悪」

 姫が言った。

「お姉さまは強いんですよ! 機神なんて全部やっけちゃいますよ!」

「姫、あなたは黙っていなさい、ややこしくなるから……とにかく、あたしの足だけは引っ張らないでね。ゼロ・オリジンセフィロトが死んだらワン・オリジンは消滅するから」

 そう言い残して、千穂と姫は屋上の階段室から階段を下りて去っていった。

 千穂と姫の姿が見えなくなると、那美は怒りに足を踏み鳴らす。

「なんなのよ! あの女! 好き勝手なコトばかり言って!」

 那美が怒りをあらわにしていると、階段室の陰から女性の声が聞こえてきた。

「だったら、あたしの時みたいにデコピンでもしてみたら」

 いつものペロペロキャンディーをナメながら、イヴが姿を現す。

 訝る目で那美がイヴに質問する。

「盗み聞きしていたの?」

「屋上は、あたしの避難場所──ここは、落ち着く。さて、どうしましょうか。ゼロ・オリジンセフィロトとワン・オリジンセフィロトは協力してもらわないと……強い機神が現れた時に倒すコトができない」

 そう言ってイヴは、キャンディーをナメ続けた。

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