第十一話・第三章ラスト
翌日、明け方と午前に微弱な大地の揺れが数回あった【逆鉾学園】の放課後の屋上──那美とミコトは千穂に屋上へ呼び出された。
千穂の腕には、もはやオプション化した姫がしがみついている。
千穂が那美に言った。
「昨日はありがとう、弟と妹が喜んでいた……遊んでくれてありがとう、家ではちゃんとしたお礼が言えなかったから」
赤らめた顔を、姫がしがみついている腕の反対方向に向ける千穂。
「また、弟や妹がミコトに遊びに来て欲しいって……伝えたからな」
那美は千穂との距離が、少しばかり縮まったような気がした。
千穂が真剣な顔で言った。
「ところで今日、明け方から数回弱い地震があっだろう。震源地が移動している変な地震が……あれってたぶん」
千穂がそう言った時。町の方で突然、数本の土柱が上がり大地が大きく陥没した。
クレーター状に陥没した中央地点から銀色の山が、土や瓦礫を滑り落として競り上がってきた。
クレーター周囲の建物が見えない力に圧し潰される。
千穂が言った。
「やっぱり、今朝からの地震は機神の仕業……姫、いくわよ」
「はい、お姉さま」
千穂と姫の体が黄金色の化生覚醒二重螺旋に包まれ、生体巨神機神【セフィロト・ファム】が出現する。
セフィロトになった千穂が、屋上にいる那美に言った。
「そこで見ていなさい、あの機神はあたしが倒す」
セフィロト・ファムは、背中から金属の翼を突出させると上空へと舞い上がる。
那美がミコトに言った。
「ミコト、あたしたちもやるよ……化生覚醒! セフィロト!」
那美とミコトの体が光りの二重螺旋に包まれ、セフィロト・ムリエルが出現して。
大地から現れた機神に向かって攻撃を開始した。
アポクリファ機構の地下司令室の巨大モニターには、地中から出現して沈黙する機神の姿が映し出されていた。
白いドクターコートを羽織った女医のようなイヴが、ペロペロとキャンディーをナメながら、アポクリファ機構の職員に訊ねる。
「あの機神の過去の出現データは?」
「数年前に山村に現れました。その後、山村は廃村になっています──あの機神が去った直後の井戸水が一時的に、金属の苦毒で飲用できなくなった記録が残っています」
司令室に集まった。
紅蓮の覇者・ワルキューレ隊の【弁財天 アテナ准佐】
深緑の機動・フォンリル隊の【円騎堂 タケル准佐】
紺碧の追撃・ミッドガルト隊の【クーフー・ランスロット准佐】
アテナがイヴに言った。
「あたしたちも出撃を」
「出撃してどうするつもり──『御使いレベル』の機神を相手に」
モニターには機神を中心とした、半径数百メートルで次々と崩壊していく建物が映し出されていた。
「あの一帯に、重力場の異常が発生している……人間は近づけない、彼女たちを信じて……セフィロトに任せなさい」
機神の上空から千穂が二丁拳銃を連射する、弾丸はすべて強固なワニカメ型の甲羅に弾かれる。
「効かないか、じゃあコレならどう」
二丁拳銃が、セフィロト千穂の体の中に光りの粒子となって吸収されて、代わりに千穂の手にライフル銃型の武器が現れ空中から連射する。
弾かれる光りの弾道。
「なんて硬い甲羅なの……姫、あの機神の装甲が弱い箇所をスキャンして」
千穂の体内にいる姫が答える。
《はい、お姉さま……えーと、腹部が少し装甲が薄いみたいです……ひっくり返さないと無理です、あっ!? お姉さま、あの機神……お姉さまと相性悪いです、略取不可能属性です》
「ちっ、それなら甲羅を砕いてダメージを与えるしかない」
千穂の手にバズーカ砲のような武器が現れ、電撃が地の機神に向かって発射される。
甲羅はその攻撃さえも弾く。
機神の近くでは、那美が炎の拳で機神を連打していた。
「この! この! 砕けろ!」
やはり、強固な甲羅は那美の攻撃も寄せつけない。
ブースターのミコトが、セフィロト那美の体内で言った。
《那美──『略取不可能』って表示が出ている?》
「なにそれ、この機神倒せないってコト?」
攻撃を続ける千穂と那美──その時、機神の甲羅からカミツキガメのような頭が出てきた。
那美の拳火力が増大する。
「やっと頭を出した!」
噛みつかれる前に那美が先制攻撃しようとした、その時──機神のカメ頭が赤く光り、那美の体が見えない力で大地に圧しつけられる。
「きゃあぁぁ!!」
それまで、セフィロトの体で重力場の異常を感じていなかった那美とミコトに、強力なG〔重力〕がかかる。
「あぐあぁぁ!」
《うわぁぁぁ!》
空にいた千穂の体も、重力波で地面に叩きつけられた。
「ぐっ!」
《お姉さま!》
ボコッとさらに沈む大地。機神から二本目の首が出てきた。
(二つ頭!?)
二つ目の首が青く光ると、今度は那美と千穂の体が上昇して、空中衝突する。
潰れていた建物の残骸も空中で衝突する。
《これは、斥力〔せきりょく〕》
大地に引き寄せる重力と、反発して浮かせる斥力を交互に操る機神の力に那美と千穂は何度も、地面に叩きつけられ。
何度も空中衝突させられる。
《那美、ダメージが増大している…このままだと》
「わかっている、でもどうにも……あぁぁぁぁぁ!」
那美の全身を圧迫する超重力。
太陽が西に沈みはじめ周囲が夕日に染まると、機神は六本の足でゆっくりと那美と千穂に近づいてきた。
《お、お姉さま……あの太い足でお姉さまの頭を踏み潰すつもりです、早く逃げないと》
「動けないのよ、きゃあぁぁ!」
空中に浮かび上がり、地面に叩きつけられる千穂と那美。
(もう終わりなの……機神の力に、あたしたちは無力なの)
那美が絶望視した時──夕日の中から、こちらに向かって歩いてくる人影を見た。
(誰? ちょっと待って……あの大きさは、セフィロト?)
小柄な体躯でセフィロト化した土雲金華は、柄が長いハンマーをズルズルと引きずりながら近づいてくる。
「美味しそうな機神がいる……にゃは」
機神の重力領域に入っても、関係なく進んでくる。
機神の頭が、青く光ると金華の足に大地に食い込む爪が現れ、頭にケモノ耳も現れた。
斥力も関係なく歩いてきた金華は、大地に落ちていた那美と千穂を片手でつかむと。
「ちょっと邪魔だから、重力場の外に出ていてね」
そう言って、動けない那美と千穂を重力クレーターの外に放り出した。
機神の尻尾側から『第三の頭部』が出現する、三番目の頭は明らかに他の二つとは形状が異なっていた。
三日月型の赤いモノアイに、光のスジが流れている。
「にゃは? 三つ頭の機神にゃ、最後に出てきた頭が二つの頭に指示を出しているにゃ」
近づいてくる金華から頭を守るためか? 機神のカメ頭が甲羅の縁を周回しはじめた。
ルーレットのように回転する首の動きを見極めた金華が、ハンマーを振り下ろす。
「そうれぇ!」
ハンマーは、三番目の司令頭を粉砕する、咆哮する地の機神。
《ゲェグェェェェェ!!》
活動停止をした機神から光りの粒子が溢れ、金華のセフィロト体に吸収されていく。
「略取完了……ごちそうさま、ルーレットを止めるのは得意だ……にゃは」
ハンマーを担いで立ち去ろうとする三体目のセフィロトに、ダメージが大きすぎて動けない那美が質問する。
「ちょっと待って、助けてくれてありがとう……あなた名前は?」
振り返った金華は、鼻の下を指で擦りながら。
「【セフィロト・ニューレン】……にゃは」
そう言い残して去っていった。
《セフィロト・ニューレン……大地のセフィロト》
数日後──『逆鉾学園』の那美と千穂がいるクラスに、小柄な転入生があった。
「土雲金華、よろしく……にゃは」
「弟の石鎚岩斗です、一学年下ですけれど。なぜか姉と同じ学年に入れられてしまいました」
千穂は「また、変わったセフィロトが」と呟いた。
金華がクラスメイトに自己紹介していた頃──学園から、ほど近い公園のコンクリート滑り台の上に立って、遠方の海を腕組みをして眺めているセーラー服の女子高校生がいた。
口元を黒いマスクで隠した、女子高校生の呟き声が聞こえてきた。
「海が怯えている……機神天國の機神ですか」
女子高校生は、そのまま滑り台を普通に滑り降りて歩き去っていった。
第三章【ティタノマキア】~おわり~
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